比大統領選、ドゥテルテ氏が首位維持

 5月9日のフィリピン大統領選挙まであと2週間となり、大統領候補たちの動向や支持率に注目が集まっている。世論調査ではミンダナオ島ダバオ市の市長であるロドリゴ・ドゥテルテ氏が順調に支持率を上げているが、不謹慎な発言が相次ぎ批判を集めている。一方、投票に向けた準備が佳境に入っている中央選管では、ウェブサイトがハッキング攻撃を受け有権者の個人情報が大量に流出。安全な選挙実施への懸念も広がっている。
(マニラ・福島純一)

不謹慎発言には批判集中

中央選管、7千万人の個人情報流出

 これまで首位が激しく入れ替わるなど、人気が拮抗し混戦模様となっていた支持率調査で、ダバオ市長のドゥテルテ氏が支持を伸ばし、首位を維持する状態が続いている。民間調査会社のパルスアジアが今月19日に明らかにした最新の世論調査では、ドゥテルテ氏が32%を獲得して首位となり、25%で2位のポー上院議員との差をさらに広げた。12日に発表された前回の調査では、ドゥテルテ氏が30%でポー氏は25%だった。ビナイ副大統領は20%で3位となり、アキノ大統領の後継候補であるロハス前内務自治長官は18%で4位と、苦しい状態が続いている。また民間調査会社のソーシャル・ウェザーステーションが11日に発表した世論調査でも、ドゥテルテ氏が27%を獲得し首位となっており、有権者の意思が固まりつつある状況がうかがえる。

700

マニラ首都圏の選挙集会で演説するドゥテルテ氏=同氏フェイスブックから

 しかしドゥテルテ氏をめぐっては、誤解を招くような不謹慎発言をたびたび行い、人権団体や女性団体などから激しい批判を受けており、そのたびに支持率を落とすということを繰り返してきた。最近も1989年にダバオ市の刑務所で起きたオーストラリア人の女性宣教師の強姦(ごうかん)殺人事件をめぐり、「私は彼女がレイプされて激怒した。彼女はとても美しかった。私が最初の相手になるべきだった」と集会で冗談を言っていたことが明るみとなり、女性団体やオーストラリア大使から激しい批判を浴びた。大統領府の報道官も「女性尊重の欠如」「大統領へ適合性を欠いている」と、発言を問題視した。

 しかしドゥテルテ氏は、オーストラリア大使の批判に対し、「黙れ。あなたはフィリピン人ではない」と返し、国交断絶の考えがあることを明らかにし、さらに波紋を広げた。ドゥテルテ氏は過去にも、ローマ法王のフィリピン訪問で渋滞が悪化したとして、「法王は帰れ。もう来ないでほしい」と発言し、カトリック教会から激しい批判を浴びた前歴がある。

 ドゥテルテ氏は、ミンダナオ島ダバオ市の治安を劇的に改善した犯罪対策で人気を集めている。非合法の処刑部隊を率いて犯罪者を殺害していたという黒いうわさはあるが、国内で横行する犯罪や麻薬への対策を求める国民の声は根強く、人気を集める要因となっている。ドゥテルテ氏は警察の腐敗の原因が低過ぎる給与だと指摘し、当選した暁には給与を倍額にすることで、治安対策に警官を集中させる考えを示している。最初の3年で犯罪を劇的に減らせなければ、辞任するとも公言している。

 政治家らしくない過激発言は、庶民の人気を集めるドゥテルテ氏の魅力の一つとなっているが、カトリック教会からも大統領にふさわしくないとの批判も高まっており、当選後の摩擦も懸念され、政権運営の足を引っ張る可能性もありそうだ。

 一方、投票日に向けた準備が佳境に入っている中央選管では、ウェブサイトがハッキング攻撃を受けて、有権者の個人情報が大量に流出する事件が発生。個人情報の悪用など、有権者に不安が広がっている。流失したと思われる個人情報は7000万人分に達し、有権者の氏名のほか住所、誕生日、パスポートや指紋などの情報も含まれているという。国家捜査局によると容疑者は23歳の男で、20日に既に逮捕された。国際的なハッカー集団「アノニマス」のフィリピン支部が関与しているとみられている。逮捕された男は情報技術の学校を卒業したばかりで、中央選管の情報管理の甘さに批判が集まっている。中央選管のバウスティタ委員長は、今回の失態を謝罪する一方で、流出した情報は一般的な情報に限られていると指摘し、深刻な被害ではないと主張している。