中国の人口政策、強権による管理はひずみ生む
中国が「一人っ子政策」の廃止を決定した。1979年から36年間続いた同政策で高齢化が予想以上に進行し、いびつな人口構成や労働力不足、社会保障費の増大を招いて中長期の成長の足かせになりかねないとの判断があった。
「一人っ子政策」を廃止
中華人民共和国の建国者である故毛沢東主席は、人口規模の大きさを国力ととらえ多産奨励策を取った。しかし大躍進政策や文化大革命で国は疲弊し、人口を養う食料を生産できず国民が飢餓に瀕した経緯がある。毛主席の死去後、その反省から産児制限という世界でもまれな政策導入に踏み切った。
だが、一人っ子政策がもたらした社会的なひずみは大きなものがあった。男尊女卑の意識が残る農村部などでは、妊娠中に女子と分かると中絶するケースも多発した。
20歳未満の男女比率は2010年時点で「100対87」と偏っており20年以降、適齢期の男性数千万人が結婚できないという試算も出ている。今でも中国に近いベトナム北部国境地域の少数民族部落では、女性が拉致され、中国奥地の農村部に「妻」として売り飛ばされる誘拐事件が絶えない。
中国政府は少数民族や人口の少ない一部の省を除き、一人っ子政策を徹底してきた経緯がある。農村では多くの女性が妊娠検査を義務付けられたり、中絶手術や妊娠後の避妊手術を強要されたりした。違反者には巨額の罰金を科したが、世帯年収の3~10倍になることもあったほどだ。
今回の一人っ子政策廃止の最大の目的は、「二人っ子政策」奨励で15歳から59歳までの生産年齢人口の減少に歯止めをかけることだ。しかし、これまでも両親の片方が一人っ子であれば子供は2人まで持てるという例外措置はあった。中国でどちらかが一人っ子というケースは圧倒的に多いはずだ。それでもベビーブームは発生せず、出生数の増加に弾みが付くことはなかった。その意味で実効性には疑問が残る。
13億人の人口を擁する中国では、半数以上が人口過多の都市生活者だ。当然、養育費などが障壁となって、第2子をためらう夫婦は多く、人口調整を政策で進めるのは効果が出にくい側面がある。
中国がこれから直面する課題は「大国のコスト」だ。南シナ海での基地造成、米国に対抗しての空母建造、サイバー戦略やアジアインフラ投資銀行(AIIB)などの金融戦略、兵力の維持など諸々をこなしていかないと大国のポジションを維持できないと思い込んでいるきらいがある。
そのためには経済成長が必要条件となる。中南海の為政者の頭の中には、このまま労働人口が減り続ければ大国になれないとの強迫観念があるもようだ。
今後も続く生殖への制限
だが、そもそも国家が子宮までも管理しようという歴史に例を見ない強権国家の在り方そのものに難がある。中国人夫婦は依然として子供を産む前には申請する義務がある。今後も国による生殖に関する権利への制限は続く。
(10月31日付社説)