急速な中国海軍膨張に思う

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

「一帯一路」の経路拡張

作戦能力の完結度を高めよ

 懸案の安保関連法も決着がつき、誠に結構と考えている。今回は米中首脳会談の次なる課題の日中韓首脳会談の実現等を睨み、中国海軍の急速な膨張について紹介し、懸念とともに中国の目指すところについて所見を披露したい。

 中国軍、特に海軍の急速な膨張ぶりは、空母「遼寧」に関連し一部報道されているが、総じて我が国マスコミの報道は低調である。実態は看過できない急速なものである。防衛白書ベースでは、中国海軍の艦艇は平成24年度版で1090隻135万㌧、27年度870隻147万㌧(海自139隻45万㌧)だが、旧ソ連から導入した旧式艦艇を保有している中国軍の細部はこの数字では分からない。

 中国海軍の近代化は、ロシアから2000年以降、当時最先端のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦4隻、キロ級潜水艦12隻を導入した頃から本格的にスタートしたと言える。現在装備が進んでいる艦種は建造中を含め、052C型(旅洋Ⅱ)6000㌧級ミサイル駆逐艦6隻、052D型(旅洋Ⅲ)7000㌧級12隻、054型(江凱)4000㌧級ミサイル護衛艦20隻、及び前述のソブレメンヌイ8000㌧級4隻、運用中及び建造中の空母2隻を加えると40万㌧を超える新型水上艦艇群となる。

 何れも侮りがたい性能と見るべきである。さらに新型ミサイル艦055型や3~4番目の空母建造が噂されており、海南島亜龍湾の空母基地には、世界最大の空母用バース(420㍍×200㍍)が完成している写真が公表されている。こうした情勢から、米国の議会報告をはじめ、軍事情報関係者は、20年後に中国は複数の外洋空母艦隊を太平洋で活動させる能力を持つと予測している。

 潜水艦に目を転ずると、晋型1万2000㌧原子力弾道ミサイル潜水艦(以下SSBN)にDF31核弾道ミサイルを搭載する努力を長年行ってきたが、近年水中からの発射に成功、晋型SSBN戦略体制の確立、並びに新型艦への移行に拍車がかかったものと見られる。攻撃型原潜(SSN)においても093型商級(7000㌧)の開発が軌道に乗ったと見られ、現有の2隻から4隻を建造中と伝えられる。通常型潜水艦は、2000年以降キロ級12隻、宋級13隻、元級12隻を就役させており、新型タイプは、海自潜水艦と同様AIP(大気非依存型推進システム)を装備していると言われている。

 話題の空母「遼寧」は、搭載機J12(ロシア製SU33コピー)による着艦・発艦訓練が報じられているが、本格的運用の報道はない。おそらく、青島港を本拠に空母の基本技術である艦載機運用、カタパルト、着艦拘束装置開発の模索を含め、本格空母技術の開発に努めているものと考えられる。2番艦は、「遼寧」コピーのスキージャンプ型になるようで、米議会報告もこれを認めている。艦載戦闘機SU33の技術導入については、したたかな露中両国のこと、予断を許さないが、ウクライナ紛争にかかる国際社会のロシア非難のなかで、一貫してロシアを庇った見返りに、中国は懸案の技術を入手したとの噂もあり今後の進捗が注目される。

 この様な急激な海軍艦艇の膨張は、太平洋戦争直前の日本以外に例がない(漢和防務評論)ものであり、どこまで軍備を拡大し、何を企図しているのか注目されるところだが、これまでの要人の各発言、論文等からその輪郭が浮かび上がってくる。

 それは前回紹介した「一帯一路」の壮大な戦略との関連である。13億の人口を抱え、社会の産業化を実現していくため、最も頭の痛いのはエネルギー確保であることは間違いない。陸路では既にトルクメニスタンなど西域資源国から液化ガスのルートが確立しているが、さらなる資源を求めて北アフリカまでその経路拡張を企図しているのは明らかである。

 これと並行して、海上でも第2列島線以西の太平洋への軍事的圧力・プレゼンスを確立し、中国的シーレーンの確立を目指しているのであろう。また、南シナ海、東シナ海の動静も、南沙群島・尖閣をはじめとする無理無体な領土宣言、領海宣言と相まって、自由に振る舞える「内海化」を進め、日米の琴線たるマラッカ海峡をコントロール可能とし、戦略的重要拠点となる海南島地区の安泰を図る意図が明白である。

 こうしてみると向かうところ敵なしを思わせる中国の軍拡だが、沢山の問題点を抱えている。最新の製造装備を揃えているが、性能的に抜きんでているわけではない。基本的にロシアからの技術導入・国産化製品であり、列国海軍と対等に力を発揮できるとは限らない。

 また、財務的負担も大きな問題である。一般に兵器の導入は、調達費に加えて装備化したその日から、整備維持費、錬成訓練費、弾薬費が積み重なっていくものであり、大きな負担となる。ましてや外洋に進出する場合、外地に泊地を確保する必要があり、軍事的のみならず、政治的、経済的に多大の投資が必要である。

 こうした弱点をも見据えながら、日米同盟としては、対応に時機を失することのなきよう、防衛力の整備に十全を期す必要がある。特に我が国においては、米海軍依存度の高い海上航空・原潜対処には、完結力の高い作戦能力の観点からも新たな発想が求められている。

(すぎやま・しげる)