抗日戦勝行事、対中警戒を強めるだけだ


 中国による「抗日戦争勝利70周年」を記念する行事が北京の天安門広場で開かれ、およそ1万2000人の兵士が動員された軍事パレードが行われた。習近平国家主席は演説で「中国は将来、兵力を30万人削減する」と宣言した。

 狙いは、国際社会に広がっている中国脅威論の払拭(ふっしょく)にあるとみてよい。だが、たとえ30万人削減しても残存兵力は200万人。削減は海・空軍と戦略ミサイル部隊の増強が狙いであり、戦力運用の効率化にすぎない。

 パレードで軍事力誇示

 「抗日戦争の勝利を記念する」とした中国の軍事パレードは今回が初めてだ。強大になった軍事力を背景に指導者の威信を内外に誇示するのが狙いだろう。日米両国をはじめ国際社会は警戒を強めるべきだ。

 習主席の演説の中には「抗日」や「日本軍国主義」という単語が12回も出てきた。習主席は「侵略者を前に我々は血みどろになりながらも不撓不屈の精神で戦い抜き、日本軍国主義、侵略者を徹底的に打ち負かした」と述べた。

 中国は記念行事について「今日の日本を標的にしていない」と表明していたが、日本を「仮想敵国」と見なしていることが明らかとなったと言える。中国の現指導部は、共産党こそ日本によって破滅寸前まで追い込まれた祖国を解放し、再生させた「救世主」だと自負している。共産党政権の正統性を強調することも狙いの一つだろう。

 菅義偉官房長官は行事の前に「政府としては『過去の不幸な歴史に過度に焦点を当てるのではなく、国際社会が直面する共通の課題に対して未来志向で取り組む姿勢を示してほしい』と考えている」と述べた。だが、この期待が完全に裏切られたのは、極めて遺憾である。

 習政権が今回アピールしたのは、第2次世界大戦での「戦勝国」としての立場のみであり、未来志向のものではなかった。また、兵力削減で平和路線を強調したものの、中国は南シナ海問題などでは依然として強硬な姿勢を見せており、国際社会の不信感を払拭できたとは到底言えない。

 中国は世界の指導者を招待したが、安倍晋三首相やオバマ米大統領、欧州諸国のほとんどは参加しなかった。首脳級で出席したのは、ロシアのプーチン大統領、韓国の朴槿恵大統領のほか、ベネズエラのマドゥロ大統領、スーダンのバシル大統領らにとどまった。

 軍事パレードでは、米本土を攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)や海洋進出を支える海軍主力の空母艦載機などが初めて披露された。

 中国は日本や東南アジア諸国との間に領土問題を抱えている。このように軍事力を誇示することで、こうした国々や「リバランス(再均衡)政策」に基づいてアジア太平洋に戦略の重心を移しつつある米国を牽制(けんせい)したとみてよい。

 信頼得られぬ「戦勝国」

 「戦勝国」としての立場の強調だけでは、国際社会の信頼は得られない。

 まして「力の誇示」は周辺国の警戒を強めるだけであることを習政権は認識すべきだ。

(9月5日付社説)