露呈した中華帝国主義の野心


 中国の習近平国家主席は上海で開催したアジア相互協力信頼醸成会議(CICA)首脳会議で「アジアの安全はアジアの国民によって守られなければならない」と強調し、中華帝国主義による「地域覇権」への野心をむき出しにした。

 ロシアと組み米を牽制

 具体的にはロシアのプーチン大統領との会談後に発表した共同声明に見られるように、20カ国・地域(G20)、上海協力機構など中露が影響力を行使できる枠組みの重要性を強調したほか、プーチン大統領の「ユーラシア連合」構想に連動した格好で「シルクロード経済ベルト」構想を打ち出した。

 中国はロシアと組み、ユーラシア大陸の地域覇権の確立へと大きく舵を切ったと見てほぼ間違いはあるまい。

 そもそも、これまでの米中関係改善は、双方にとって一時的に好都合だっただけで、真の友好が伴ったものではなかったと言える。元来、価値観や政治制度が異なる国同士が提携するのは極めて難しい事柄だ。中国には司法の独立や言論の自由もなく、基本的人権が尊重されている国とはとても考えられない。また、民主的な選挙によって政治家や国家主席が選出されるわけでもない。

 習主席が第一義的に考えているのは、共産党独裁政権の存続であって、普遍的価値の保護では決してない。

 それにしても1972年にニクソン米大統領が北京に飛び、ソ連に対抗するために米中関係修復に動いた時代からすると隔世の感がある。当時はソ連の安全保障上の脅威を封じるため米中が手を組んだわけだが、それが一転し今度は米国のアジアへのリバランス(再均衡)戦略を崩すため中露が手を組もうとしている。

 ただ、中露関係の強化が表層的なものにとどまる可能性は高い。プーチン大統領が企画する「ユーラシア連合」構想にしても、ウラジオストクなどの極東開発には技術も資本もある日本の手を借りたい内情があるだけでなく、タタールの軛(くびき)に根差した中国への不信感は大きなものがある。

 タタールの軛とは、13世紀前半に始まったモンゴルのルーシ(現在のロシア・ウクライナ・ベラルーシ)侵攻と支配だ。ロシアとすれば単なる過去の話ではなく、総人口600万人に満たない極東ロシア(東シベリアのバイカル湖から太平洋に接する地域)が総人口1億人を超える中国東北3省の人口圧力にさらされてもいる。

 またCICA首脳会議に参加した中央アジア各国やイランにしても中国一辺倒ではない。ましてや厳しい国際環境を熟知しているイスラエルや北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコも唯々諾々と中国に従うわけではない。

 関係国との絆の強化を

 我が国とすれば固有の領土である沖縄県・尖閣諸島に触手を伸ばし、南シナ海でもベトナムやフィリピンを見下したような横暴な振る舞いが目立つ中国を牽制するには、中露関係のほころびに目を向けた外交の展開とともに関係国との絆の強化が不可欠となる。

(5月23日付社説)