ASEAN声明、対中結束を一層強化せよ


 東南アジア諸国連合(ASEAN)がミャンマーで開いた外相会合で、南シナ海情勢について「深刻な懸念」を表明。首脳会議でも「緊張をさらに高める行動を慎むよう求める」とする宣言を採択した。

 南シナ海をめぐっては、ベトナム艦船と中国艦船が西沙諸島付近で衝突、ベトナム側に負傷者が出た。また、南沙諸島沖ではフィリピンが中国船を拿捕するなど対立が深刻化している。

 南シナ海で緊張高まる

 「力による現状変更」を求める中国の行動は国際ルールに反する。ASEAN諸国が結束を表明したことを歓迎したい。日米両国も支援すべきだ。

 東南アジア諸国の対中国姿勢についてはこれまで微妙に温度差があった。今回、ベトナムのズン首相は「中国は恥知らずにもベトナム領海を侵犯し、深刻な違法行為を繰り返している」と激しいトーンで対中批判を展開。一方、中国との経済的な結び付きが強いカンボジアとラオスは沈黙を貫いた。

 比較的中立的なのはマレーシアやインドネシアだ。マレーシアも中国と領有権紛争を抱えるが、これまで中国批判とは一線を画してきた。

 しかし今回は全加盟国が対中牽制(けんせい)で一致した。インドネシアはこれまで中国とのパイプ役を担ってきたが、ベトナムに同調した。中越間の緊張が高まる中、ASEANの団結を強く打ち出さなければ、加盟国間の亀裂が大きくなるとの判断からであろう。賢明な選択と言える。

 南シナ海で緊張が高まっている原因の一つは、資源をめぐる争奪戦である。米エネルギー情報局(EIA)は南シナ海の資源埋蔵量について、石油が110億バレル、天然ガスが190兆立方フィートと見積もっている。一方、中国海洋石油(CNOOC)は、石油が世界最大級の産油国サウジアラビアの埋蔵量のほぼ半分に相当する1250億バレル、天然ガスが500兆立方フィートと試算している。

 中国がなりふり構わず南シナ海の実効支配を強化しているのは、このような資源欲しさからであり、これに対処するには東南アジア諸国が結束するほかはない。

 その点で、今回の声明は一歩前進と評価できる。あとは中国の分断工作に乗らないように警戒を強めつつ、対中結束を実効性のあるものにしていく必要がある。

 中国船とベトナム船の衝突の原因は中国がベトナムと領有権を争っている西沙諸島海域で一方的に石油を掘削したことだ。米国務省報道官は「係争地での石油掘削は挑発的」と批判し、菅義偉官房長官も「一方的な活動により地域の緊張感が高まっていることを憂慮する」と述べた。当然の批判だ。

 認められない「九段線」

 中国は「九段線」に基づき、南シナ海の大半の管轄権を主張している。「九段線」とは、中国が南シナ海の権益を主張するために地図上に引いた9本の境界線で、国際的には全く認められていない。

 要するに「力による現状変更」を求める中国の意図を示すもので、日米も結束して中国を非難すべきだ。

(5月14日付社説)