道教信仰と結びつく社会ー台湾から
地球だより
台湾の社会と信仰の結び付きは深い。台北の街を歩くと、そこかしこに道教の神様を祀(まつ)る「廟(びょう)」があって線香の煙が絶えず、道行く人たちもちょっと足を止めては手を合わせていく。大きな廟ともなれば、平日でも参拝する人で混雑し、若者の姿も少なくない。
一説には、明や清の時代、中国大陸の戦乱や飢饉から逃れようと、多くの人たちが台湾を新天地として目指したが、未発達の航海技術のため、台湾海峡で命を落とした人も少なくないという。そこで、海の女神である媽祖(まそ)を祀るようになったことから、現代でも台湾中に廟があり、台湾の人々の生活と信仰が身近になったというのだ。
10月下旬、台湾北部の新北市でハイキング中の子供たちと保護者が鉄砲水に流されるという痛ましい事故が起きた。10人以上が行方不明になる中、テレビのニュースに映し出されたのは、行政の責任者である新北市長が廟に赴き、行方不明者の早期発見を祈願して線香を上げている姿だった。
台湾の友人に聞いてみたところ、いくら科学技術や文明が発達した現代であっても、信仰にすがって祈願することは台湾人にとって自然な行為で、まったく違和感はないという。
選挙でも候補者が地方を訪問すると、その土地の廟を訪れて参拝する光景がよくニュースで報じられる。「政教分離」に神経をとがらせる日本から見ると、台湾では信仰が人々の生活に深く根差していると感じられる。(H)