混戦模様のフィリピン大統領選挙


ドゥテルテ氏娘は出馬否定 
マルコス元上院議員の支持急伸

このほどドゥテルテ比大統領が、政界からの引退を表明し波紋を呼んでいる。娘のサラ・ダバオ市長も大統領選への出馬を否定するなど、与党は有力大統領候補が不在の状況だが、ドゥテルテ氏に近いマルコス元上院議員が大統領候補として支持を急速に伸ばしている。また、ドゥテルテ氏の麻薬戦争を強く批判してきたジャーナリストがノーベル平和賞を受賞するなど、与党に逆風も吹いている。
(マニラ・福島純一)

ドゥテルテ氏は10月2日、政界からの引退を表明し来年の副大統領選には出馬しない方針を明らかにした。ドゥテルテ氏に代わり与党PDPラバンからは、ダバオ市長時代からの側近であるボン・ゴー上院議員が副大統領選に立候補した。

フィリピンのドゥテルテ大統領=2019年7月、マニラ(AFP時事)

 ドゥテルテ氏は麻薬戦争の継続などを理由に副大統領選への出馬に意欲的だったが、世論調査で約6割の国民が大統領の次期副大統領就任を違憲だと考えるなど批判が高まっていた。ドゥテルテ氏出馬で選挙戦のリードを期待されたが思惑が外れた格好となった。

 当初、与党PDPラバンは大統領候補としてゴー氏を指名していたが、ゴー氏はこれを固辞。ドゥテルテ氏の立候補取りやめを受け副大統領候補に鞍(くら)替えとなった。そして空席となった大統領候補には、元国家警察長官のデラロサ上院議員が党の指示で突然立候補することになった。

 野党陣営も反ドゥテルテ派の急先鋒(せんぽう)であるロブレド副大統領を中心に統一野党候補が模索されたが、マニラ市のモレノ市長が大統領選への出馬を決めるなど混戦状況となっている。

 さらに独裁政権で有名だったマルコス元大統領の長男であるボンボン・マルコス元上院議員も自身の政党である連邦党から大統領選に立候補した。ドゥテルテ氏は、長年にわたり物議を醸していたマルコス元大統領の英雄墓地への埋葬を許可するなど、マルコス家と非常に近い関係と言われており、サラ氏がマルコス氏とペアを組んで副大統領選に出馬するとの噂(うわさ)も絶えない。

フィリピンのドゥテルテ大統領の長女、ダバオ市長のサラ氏=2017年5月、南部ダバオ(EPA時事)

 また、候補者の変更は11月15日まで認められていることから、サラ氏がどこかの政党の大統領候補と交代して出馬する可能性もまだ残されている。実際にドゥテルテ氏は前回の選挙で、直前まで大統領選への立候補を否定したが、この手法で出馬し当選した。

 ドゥテルテ大統領の支持率は依然として74%に達するなど、国内では非常に高い評価を得ている。しかし国際刑事裁判所(ICC)が麻薬戦争における超法規的殺人の捜査に乗り出すなど、国際社会から厳しい追及は続いている。

 さらにドゥテルテ政権の麻薬戦争を批判し続けてきたジャーナリストでオンラインメディア「ラップラー」のCEOを務めるマリア・レッサさんが、フィリピン人初のノーベル平和賞を受賞した。ドゥテルテ大統領はラップラーの記者を大統領府の記者会見から締め出すなど、その報道方針をめぐり「フェイクニュース」と批判し対立を強めてきた。しかし国際社会がレッサさんの功績を認めたことで、今後の政権支持率に影響を及ぼす可能性もありそうだ。

プロボクシングで世界6階級を制したフィリピンのパッキャオ上院議員=2019年7月、米ロサンゼルス(EPA時事)

 政策PR会社のパブリカス・アジアが22日に発表した大統領候補に関する世論調査結果によると、マルコス元上院議員が49・3%と圧倒的な支持を獲得して首位。これに21・3%のロブレド副大統領が続き、8・8%のモレノ・マニラ市長、2・9%のラクソン上院議員、2・8%のパッキャオ上院議員という結果となった。

 前回7月の調査ではサラ氏が21%で首位となり、マルコス氏は18%で2位だった。今回は立候補を否定したサラ氏が調査から抜け、その支持をマルコス氏が取り込んだ格好となり、マルコス氏とロブレド氏の一騎打ちの様相を呈している。マルコス氏は前回の副大統領選に出馬したが、僅差でロブレド氏に敗れており,来年の大統領選はまさに因縁の対決となる。