【社説】保釈中の逃亡 厳罰化で防止策強化を急げ
保釈中の被告人らの逃亡防止策について、法制審議会(法相の諮問機関)が国外逃亡を防ぐため、裁判所が全地球測位システム(GPS)端末の装着を命じることなどを可能にするよう古川禎久法相に答申した。
被告人は裁判を受けるべき立場であり、逃亡は許されない。逃亡すれば、地元住民を大きな不安に陥れることにもなる。厳罰化で逃亡防止策の強化を急ぐべきだ。
GPS装着の命令可能に
逃亡防止策については、日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告の事件などを受け、2020年6月から法制審が議論を続けていた。ゴーン被告のように海外に逃亡されれば、日本の司法制度は機能しなくなる。答申を受け、法務省は立法化の作業を急いで早期の国会提出を目指す。法整備による再発防止は喫緊の課題である。
答申では、裁判所が被告人を保釈する際、国外逃亡の恐れがあると認めれば「GPS端末装着命令」を下せるようにする。命令された被告人は常にGPS装置の装着が義務付けられる。
これとともに、空港や港湾などへの立ち入りや、端末の損壊・取り外しを禁じる順守事項を設ける。端末は順守事項違反を検知して裁判所に知らせる機能を持ち、裁判所から連絡を受けた検察官や警察官らが身柄を確保する仕組みとなっている。違反した場合には1年以下の懲役などの罰則も設ける。
法務省によると、勾留された被告人のうち保釈が許可された割合は、09年の15・6%から20年の31・9%にほぼ倍増し、保釈は近年、増加傾向にある。背景には、否認する容疑者や被告の拘留が長引く傾向があるとして「人質司法」との批判が出ていたことがある。
だが、同じ期間に逃走などを理由とした保釈の取り消しは、40人から219人に増加。懲役・禁錮刑が確定しながら、所在不明になった「とん刑者」は昨年6月末時点で41人に上る。19年には神奈川県や大阪府で保釈後の逃亡事件が相次ぎ、制度の課題が浮き彫りとなった。
現行法の逃亡罪は、刑務所などで身柄を拘束されている受刑者らが脱走したケースを対象としている。保釈中の被告人が逃亡した場合、制裁手段は保釈保証金の没収と保釈取り消しだけで、保証金を諦めれば逃亡できることは大きな問題点だ。
このため、答申では「監督者制度」を新設した。裁判所が被告人の親族らを「監督者」に選び、保証金を納めさせることで、被告人に逃亡を思いとどまらせる狙いがある。
また、これまで必要がなかった控訴審判決への出廷も義務化する。さらに、保釈中の被告人が公判期日に裁判所に出頭しなかった場合の罰則として「不出頭罪」を、指定された住居を許可なく離れた場合には「制限住居離脱罪」を新設。それぞれ2年以下の懲役を科す。厳罰化で被告人の逃亡を防止しなければならない。
徐々に対象を広げよ
GPS装着をめぐって、海外では対象者が増えて対応が間に合わなくなるケースもある。最初は必要性の高い人に限定し、徐々に対象を広げるべきだ。