次期大統領選に動くフィリピン
来年5月に控えるフィリピン正副大統領選に向けた動きが本格化している。最新の世論調査でロドリゴ・ドゥテルテ大統領の後継者として、長女でダバオ市長のサラ・ドゥテルテ氏(以下、サラ氏)が高い支持を集める一方で、ドゥテルテ氏自身も副大統領候補として出馬する意思を見せている。また選挙活動に感染対策の規制も導入される見通しで、コロナ禍により選挙戦も大きく様変わりしそうだ。
(マニラ・福島純一)
大統領長女が最有力
ドゥテルテ氏、副大統領選に出馬か
来年の正副大統領選の候補者の届け出開始を10月に控え、与野党陣営は候補者選びに動き出している。
民間調査会社のパルスアジアが7月に発表した正副候補に関する世論調査によると、サラ氏が大統領候補として28%の支持を集め、トップとなった。またドゥテルテ氏も18%の支持率で副大統領候補のトップとなっており、国民のドゥテルテファミリーに対する強い期待が明確となった。
他に大統領選の有力候補としては、マニラ市のモレノ市長が14%を集めて2位につけ、3位にはマルコス元大統領の長男であるボンボン・マルコス元上院議員が13%の僅差で後を追っている。またモレノ氏は副大統領候補でも14%で2位となるなど、ドゥテルテファミリーに肉薄する人気だ。
サラ氏はこれまで高い人気にもかかわらず、大統領選への立候補を否定していた。しかし7月に入り「最終的な判断ではない」としながらも、出馬について前向きに考えていることを明らかにした。しかし、サラ氏は父ドゥテルテ氏が名誉党首を務める与党PDPラバンの所属ではないため、父娘がどのようにペアを組んで出馬するのか調整が必要と考えられる。
与党PDPラバン内でも、副大統領候補にドゥテルテ氏を指名する決議が採択されるなど、次期正副大統領選への動きが本格化。ドゥテルテ氏もこれに応えるかたちで、副大統領選に出馬することを真剣に考えていると述べるなど、ドゥテルテ父娘のペア出馬が実現する可能性が高まっている。
しかし野党陣営からは、ドゥテルテ氏の副大統領選への出馬をめぐり、副大統領の免責特権を利用して、麻薬戦争などにおける人権侵害への訴訟から身を守ろうとしているとの批判も出ている。
また注目される動きとしては、与党PDPラバン内で、国民的ボクサーで上院議員のパッキャオ氏が、ドゥテルテ政権下で汚職が30%増えたと政権批判したことを皮切りに、内部分裂の動きが加速。さらにドゥテルテ氏が出席した党大会でパッキャオ氏が党首の座から引きずり降ろされるなど、両者の溝は深まっている。パッキャオ氏も大統領選の有力候補であり、どのように派閥争いを収束させるのかに注目が集まっている。
野党連合のイサンバヤンは、ロブレド副大統領を中心に候補者の絞り込みを始めているが、PDPラバン内の内紛が収まらなければ、パッキャオ氏を候補者として受け入れる可能性も示唆。もしこれが実現すれば与党陣営にとって大きな脅威となりそうだ。
また新型コロナウイルス感染の脅威が続く中、中央選挙管理委員会は、候補者の選挙活動に関して大規模な集会の開催に規制をかけるなどの感染対策を盛り込む方針を示している。また握手やキス、食料の配布なども禁止される見通しで、候補者にも検査が義務付けられるなど、選挙活動は大きく様変わりしそうだ。
これまでの選挙では、集会でいかに多くの支持者を集めるかが競われたが、コロナ禍によりソーシャルメディアにおける選挙活動が、さらに重要度を増すのは確実と見られる。中央選挙管理委員会はソーシャルメディア上の広告などへの費用も選挙運動費と見なし規制する方針を示している。