重い対中債務に苦しむラオス

 ラオスには「宝の山に座っている貧乏人」という言葉がある。金や銅、ボーキサイトなど豊かな地下資源を誇る国土に暮らしながら、人々の生活は貧しい自国を自嘲気味に語るものだ。だが、最大の資産である地下資源も、このままでは中国に借金のかたとして取られてしまう「債務の罠」に陥りかねず、ラオスは「宝の山を隣国に奪われた貧乏人」になってしまうことが懸念される。(池永達夫、写真も)

終着駅は「債務の罠」?
債務累積100億ドル、コロナ禍で返済難に

 米国の三大格付け会社の一つフィッチ・レーティングスは9月下旬、ラオスの長期債務の格付けを「Bマイナス」から「トリプルC」に一気に2段階引き下げた。

中国が建造したラオス文化センター=ビエンチャン中国が建造したラオス文化センター=ビエンチャン[/caption]

 ラオスの外貨準備高約9億ドル余に対し、年内に約5億ドル、来年からは4年間、毎年約11億ドルの債務返済義務があることが理由だ。ラオスの対外債務は累積100億ドル以上とされ、デフォルト(債務不履行)も視野に入る。

 債務の内訳をみると、中国からのものが大半を占める。その中国融資で最大のものは、首都ビエンチャンと中国雲南省昆明とを結ぶ高速鉄道建設費だ。2016年から本格的に建設が始まったラオス高速鉄道の完成式典は、来年12月2日の建国記念日に予定されている。

 フランス植民地時代でも、隣国ベトナムやカンボジアと違い鉄道の一本も通ることのなかったラオスにとって、中国から提案された全長472キロメートルの高速鉄道建設は夢のような計画だった。

 だが、甘い言葉に乗せられ夢に浮足立つと、大抵は現実から足払いをくらうものだ。60億ドル規模の高速鉄道建設費の7割は、中国への債務として計上された。

 ラオスでは来年の完成を待たず、その悲劇の序章が始まりつつある。

ラオス

 

 米シンクタンクは、ラオスをパキスタンなどと並ぶ「一帯一路の債務負担に対して脆弱(ぜいじゃく)な8カ国」の一つに挙げた。

 「債務の罠」では、16年にスリランカが債務不履行に陥って「ハンバントタ港の99年間の運営権」を中国企業に獲られてしまった例があるし、パキスタンではグアダル港の管理運営権が13年から中国に移った。また、ジプチに自由貿易区と鉄道を建設した中国は、その見返りとして海外初となる軍事基地を構築している。

 中国を財布代わりに使う際には、そうしたリスクをヘッジする一工夫が必須となる。ラオスも夢の高速鉄道の終着駅が、「債務の罠」ということもあり得るのだ。

 事実、新型コロナウイルス禍による世界的な経済の低迷で、ラオスの外貨稼ぎ頭の一つだった海外出稼ぎ組10万人が帰国を余儀なくさせられ、外国人観光客のキャッシュの受け皿となってきた観光産業も鳴かず飛ばずとなり、政府の財政悪化に拍車を掛けている。20年の財政赤字は前年比54%増の12億ドル、外貨準備は6月時点で前年比12%減の9億3000万ドルにまで落ち込んだままだ。また、ラオス通貨のキープ安で債務が膨らむなど、債務返済の道が困難になっている。

 ラオス政府はさっそく9月、最大の債権国・中国に債務再編を要請。中国から債務減免などを引き出す狙いだが最悪の場合、ラオス最大の資産である地下資源や水力発電による電力が借金のかたとして中国に取られてしまうリスクが存在する。