フィリピン マニラ首都圏で医療危機
いち早く3カ月以上にもわたるロックダウン(都市封鎖)を決行したフィリピンだが、いまだに新型コロナウイルス感染の収束の兆しは見えない。悪化する国民の失業や貧困を改善するため、政府は経済活動の再開に舵(かじ)を切ったが、ここにきて感染者数が急増。病院の新型コロナ病棟が相次いで満床になるなど、経済と感染対策のバランスに苦慮している。(マニラ・福島純一)
感染者急増、満床の病院相次ぐ
再びロックダウンを行う市も
13日にマニラ首都圏の複数の私立病院が、相次いで新型コロナ病棟の満床状態を発表し、医療危機に直面している実態が明らかとなった。新型コロナ患者の受け入れを停止したのは、首都圏で二つの病院を運営するセントルークス・メディカルセンターと、マカティ・メディカルセンターなどで、いずれも在留邦人や外国人の利用者も多い大手病院だ。
それまで政府は病床には余裕があるとの見解を繰り返し、さらなる経済活動の再開に必要な規制緩和を推し進めてきた。具体的には飲食店でのイートインの規模を定員の30%の規模から50%に拡大し、営業時間を延長するため自治体に夜間外出禁止の短縮を求めた。また公共交通機関では、感染対策が困難として再開を認めなかった乗り合いバスのジープニーの営業を一部容認。バイクの2人乗りも解禁した。
マニラ首都圏もいよいよ全面的な規制緩和が行われるとの雰囲気が広がっていた矢先の医療危機だっただけに、政府は冷や水を浴びせられる形となり、一筋縄ではいかないコロナ対策の現実に直面した。
医療危機で批判の矢面に立った保健省は、全国の病床は49%しか埋まっていないと説明し、依然として危機的な状況ではないと主張。しかしその一方で、各病院に対し一般病棟の一部を新型コロナ病棟にして病床規模を拡大するよう求めた。しかし設備や人員の問題もあり、そう簡単に新型コロナ病棟を増やせるかは疑問符が付くところだ。
マニラ首都圏を走る高架鉄道のMRT3号線では、車両基地の作業員を中心に100人以上の集団感染が発覚。集団検査の結果、感染者は300人近くまで広がり5日間の運行停止となった。これ以降、高架鉄道の各線では車内での会話や携帯電話の通話を禁じるなどの対策強化に追われた。
感染急増の原因は、経済活動の再開による人の移動や職場復帰に伴う検査の増加だけではない。外出規制やマスク着用義務に従わない、自由奔放な市民の存在も政府を悩ませているのだ。
マニラ市のモレノ市長はマスクの無着用や外出規制違反などで1万人以上が逮捕され、その多くが未成年者だと指摘。子供を管理できない無責任な親を、警察と協力して訴訟を起こす構えを示した。
またナボタス市は感染者の急増で隔離施設が満員になったとして、16日から厳しい外出規制を伴う約2週間のロックダウンを行うと発表した。全国規模のロックダウンが解除されたあと、町内の一部を対象とした小規模なものは行われてきたが、市全体を対象にした再ロックダウンは首都圏では初めて。人口が集中する都市部での新型コロナ対策の難しさを改めて突き付けられた格好だ。
内務自治省のアニョ長官は、無症状や軽症者の自宅隔離が感染を広げている可能性を指摘し、政府の隔離施設への収容を進める方針を示した。
自宅隔離には患者専用の部屋やトイレなどが条件となっているが、厳守しないことが多いため、警官が戸別訪問を行って施設への収容を進めるとしている。しかし弁護士団体からは、警察の介入はプライバシーや人権の侵害に当たるとの批判も出ている。
マニラ首都圏の市長たちは14日に行った会合で、最近の感染状況を踏まえ、さらなる規制緩和は時期尚早だとして検疫レベルの現状維持で一致。政府に提言する方針を示した。
フィリピンの感染者は15日の時点で6万人近くに達し、死者は1600人を超えている。日々の感染者数は1000~2000人ほどで推移。フィリピン大学の専門家は7月末までに8万人に達すると予測している。





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