死者として生きる修行者サドゥ-インドから
地球だより
インドの魅力は、そのアクの強さだ。文化と宗教を持ち、悠久の歴史を刻んできたのだから、やわな現代人は圧倒される。
そのためインドを訪問する人には拒絶反応を示し二度と行かなくなる人もいる一方、何度も足を運びディープな付き合いをする人もいる。私は後者で、インドにはここ四半世紀で12回ほど訪問する機会をつくった。
最初にインドらしい出会いがあったのは、北部のリシケシュで出会ったサドゥだった。サドゥとは、俗生を離れ、家や仕事、家族を持たずに生きるヨガの実践者、修行者のこと。現存する世界最古の宗教集団ともいわれる。
その時のサドゥは腰回りの衣服を身に着けていたが、通常、何も身に着けず、体中に灰を塗りたくっている。
サドゥになるには、世俗を捨てる必要があり、政府に「死亡届」を出す。塗った灰の白は、「死者であること」を意味する。
そうはいっても生身での修業だから、腹はすく。その時は、近辺に実っている果物や野菜を食べる。食堂の前を通り、食欲に駆られたら「私は腹がペコペコだから何か食べさせて」と騒ぐ。
町の人は「サドゥ」を邪険に扱うことはしない。それをすると呪われると信じており、サドゥから食料をせがまれても基本的に断らない風土がある。
今の時代、そうした死者として生きる修行者が存在すること自体に圧倒されるが、それを社会的に受け入れている懐の深い風土にも感服する。
(T)