コロナ混乱に便乗、挑発行動目立つ中国軍

空母展開、新行政区設置も 南シナ海

 新型コロナ大感染の世界的混乱に乗じる格好で、中国の艦船などによる挑発行動が顕著となっている。とりわけ懸念されるのが、中国が実効支配強化に動き始めた南シナ海だ。(池永達夫)

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 中国海軍報道官は13日、空母「遼寧」の編隊が宮古海峡と台湾南部のバシー海峡を通過した後、南シナ海の関係海域で訓練を実施したと発表した。それに先立つ2日には、中国海警局の船がベトナム漁船に体当たりして沈没させた。また先月19日には、台湾の小金門島海域で中国の漁船が台湾の沿岸警備船に体当たりするということも起きている。

 一方、18日には南シナ海の南沙、中沙、西沙諸島などを管轄する新行政区を設けたことを明らかにした。中国民政省は海南省三沙市の下に「西沙区」と「南沙区」を新たに設置。南シナ海の西沙諸島とその海域を「西沙区」が、南沙諸島とその海域を「南沙区」がそれぞれ管轄するという。

 これら2新行政区の住民は1800人でしかなく、軍事目的の措置だ。西沙区政府は永興島に置き、同時に中沙諸島も代理管轄する。南沙区政府の所在地は永暑礁に置く。いずれも中国が埋め立てて滑走路やレーダーを設置し、ミサイルも配備するなど軍事化を進めている。これまでは三沙市が南シナ海の諸島全域を管轄するとしてきたが、行政区を細分化し区政府を現地に置くことで、有事の対応能力向上による支配権強化が狙いだ。また中国政府は、豊富な地下資源で知られる南シナ海の55の海底地形や25の島嶼(とうしょ)と暗礁など計80カ所の命名も公表した。これまでにも287の島嶼・暗礁の名称を一方的に公表している。

中国軍空母「遼寧」(一番上)

防衛省統合幕僚監部が11日に報道発表した、長崎県・男女群島の南西約420㌔の海域を航行する中国軍空母「遼寧」(一番上)などの写真。その後、南シナ海に向かった

 これに対しベトナム外務省のレ・ティ・トゥ・ハン報道官は、「ベトナムの主権を重大に侵害する行為」だと抗議した上で、同措置の取り消しを求めた。また、米国も「新型コロナ対策での忙殺に付け込んでいる」(国務省報道官)と中国を批判した。なお、米インド太平洋軍は21日、南シナ海に強襲揚陸艦「アメリカ」と巡洋艦「バンカーヒル」の2隻を展開したと発表、中国の挑発行動を牽制(けんせい)した。

 南シナ海はマレーシアやベトナム、フィリピン、インドネシアなど周辺国が一部領有権を主張しているが、中国は九段線を設定し、ほぼ全域の領有権を主張。各国の反発にもかかわらず軍事基地を建設し、実効支配を強化してきている。

 ただ4年前には、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、中国が独自に設定し、領有を主張してきた「九段線」について、「法的根拠なし」と断じた経緯がある。南シナ海での中国の無法な主張を、全面的に退ける裁定を下したのだ。これに対し中国は、「ただの紙切れ」と無視を決め込んだまま、実効支配強化に動いてきた。

 なお中国のこうした一連の動きは、領有権を主張するベトナムやマレーシアなどの南シナ海周辺国が、新型コロナ対策に追われ、インド太平洋地域に配備されている「ニミッツ」や「カール・ビンソン」など米海軍の原子力空母4隻で感染者が確認されるなど抑止力低下が懸念されるなか、米軍や東南アジア諸国の反応を確認しようという挑発行動の意味合いもある。

 どさくさ紛れに、中国はもう一つのことを香港で実行した。

 コロナ騒動で香港の反政府デモが下火になっていることを奇禍として、「目の上のたんこぶ」だった民主派勢力の重鎮15人を一斉逮捕したのだ。逮捕したのは香港当局だが、中国政府の意を受けた摘発であったことは疑問の余地がない。コロナ禍が収束すれば、再び香港でデモが起こる可能性は高く、6月4日の天安門事件の追悼集会や6月9日の反政府デモから1年の節目が控える中、中国・香港政府は民主派勢力を封印する最高のチャンスと見たのだ。