新型コロナの“中国収束”に疑惑、無症状陽性はノーカウント

 世界が新型コロナウイルスの脅威にさらされている中、共産党政権の中国は感染を“収束”させ危機脱出に成功しつつあると宣伝し、“ウイルスとの戦いを指揮してきた”習近平国家主席の記録映像などをゴールデンタイムに合わせ放送し始めた。中国の収束は本当なのか?
(池永達夫)

伊の拡散リスク調査と矛盾

 発生源となった武漢市を1月23日に封鎖して、2カ月が経過する中、中国政府は3月18日、武漢市を含む湖北省全体で新規感染者がゼロになったと発表した。以後、ゼロ行進が続き、23日になって1人の新規感染者だけが報告された。

習近平国家主席

10日、中国湖北省武漢市の病院を訪ね、スクリーンに映った患者と対話するマスク姿の習近平国家主席(EPA時事)

 だが、武漢住民の大半は半信半疑とされる。武漢市では感染が疑われる人が病院に行っても、検査で感染が確認されることはなく、恣意(しい)的データが作り上げられていると疑われるからだ。

 何より中国は新規感染者をカウントする判断基準となるハードルを上げ、数値を意図的に下げている。

 中国国家衛生健康委員会は2月、検査で陽性でも発熱やせきなどの症状がなければ「病原体を広げる確率は低い」と見なし、感染者にカウントしないとの判断基準を示している。

 だが、この措置には共産党政権の威信を保つための数値目標をクリアするための偽装ではないかとの疑惑が存在する。本当に症状がない陽性患者が病原体を広げるリスクが低いのかという、基本的な疑いがあるからだ。

 この疑いを鮮明にさせるのは、イタリアからの報告だ。

 イタリアで最初の新型コロナウイルス感染による死者が出たのは、ベニス近郊にある人口3300人の町ドウだ。

 先月22日、バルバ大学や赤十字、行政機関などが協力し、ウイルスの特性などの解明を目的とした研究、ドウプロジェクトが始まった。ウイルスがどういうふうに広まるのか、どういったリスクが存在するのか調べたのだ。この調査には、症状があろうがなかろうが3300人の住民全員のウイルス検査が含まれていた。それも複数回のウイルス検査が行われた。

 最初の検査では3%の住民が感染していた。その半分は症状がなかった。感染者だけでなく無感染者も全員、隔離して10日後に再検査すると、感染率は0・3%に下がっていた。先週、新規感染者はゼロになったとの報告がなされている。

 感染拡大を止められたのは検査のおかげだ。報告では、検査で無症状の感染者を見つけていなければ、知らないうちに感染を広げていただろうと検査の重要性を強調している。

 「沈黙の肺炎」とされる新型コロナは、症状の自覚のない感染者が拡散させている可能性がある。

 なぜ、中国は感染リスクを高めるような検査基準に変更したのか。

 考えられるのは、共産党政権の業(ごう)のなせる業(わざ)だ。

 それは国民の生命を犠牲にさらしてでも、共産党政権維持に躍起となる業(ごう)だ。

 これまで共産党政権の正当性を保証する後ろ盾となってきたのは、経済的繁栄だった。国民は司法の独立や言論の自由といった政治改革より「カネ」を重視したからだ。その経済が破綻するようなことになれば、共産党政権の求心力が地に落ちる。ここは何としても工業生産力だけでなく流通や商業なども回復させなければならないとの政治事情が、数字を捏造(ねつぞう)させている疑惑が存在する。

 また、一旦“収束”させた後、増加させる数字を海外からの流入と責任転嫁して共産党の面子(めんつ)を保つ腹積もりなのかもしれない。

 だが、実体を正視せず座標軸を動かして恣意的データを作り出すのは、最終的には悲劇を招くことにつながる。それは、実体なき虚構のレールを走る列車の運命同様、いずれ脱線するからだ。

 事実の実証に基づいた真理追求を旨とした「実事求是」の精神を持つ中国ながら、グラスノスチ(情報公開)がソ連崩壊を促したことを反面教師とする共産党政権は、進むに進めぬ隘路(あいろ)に差し掛かっている。