新型肺炎 感染広げた習氏の責任は重い


 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会はきょう、湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の対策を優先するため、来月5日に開幕する予定だった全人代の延期を正式に決定する。

 初動対応の遅れによって、国内外で大きな混乱を引き起こした中国の習近平国家主席の責任は重い。

死者が2000人超に

 中国では、新型肺炎の感染者が7万人、死者は2000人を超えた。全人代の延期は極めて異例だが、約5000人の地方政府高官らが北京に集まれば、感染拡大は避けられまい。

 新型肺炎の問題は、中国の共産党一党独裁体制の弊害を改めて浮き彫りにしたと言えよう。武漢市の周先旺市長は「地方は国から権限を委託されて初めて情報公開できる」と述べた。中国政府は1月20日に公表した習氏の指示後に情報公開姿勢に転じたが、初動の遅れによって感染が拡大し、日本など海外にも飛び火した。

 習氏は今月に入って1月7日の会議で感染拡大防止策を要求したと主張したが、真に受けることはできない。習氏は当初、対応を李克強首相に丸投げするなど無責任な姿勢が目立った。

 それだけでなく、中国当局は新型肺炎に関する情報発信を抑え込もうとさえした。昨年末に医師仲間のグループチャットで原因不明の肺炎について「重症急性呼吸器症候群(SARS)と確認された」と警戒を呼び掛けた李文亮氏は、警察に「デマを流した」として処分され、その後新型肺炎のため死去した。当局の情報隠しや貧弱な医療態勢を批判したことで拘束された弁護士もいる。

 信じ難い対応である。国民の生命や健康よりも共産党のメンツの方が重要なのか。中国では2002~03年にSARSが大流行した際にも情報隠しが問題視されたが、この時の苦い教訓を生かすつもりはないようだ。

 一方、地方政府の過剰な反応も見られる。湖北省内では外出禁止令に違反した場合に「10日以内の拘留」を独自に定めた市がある。河南省では、マスクを着けずに外出しようとした男性が柱に縛り付けられ、当局者から罵声を浴びる映像も流出している。こうした状況はもちろん改善すべきだが、国の情報への信頼度が低いため、不安が増幅して極端な行動に出てしまう面もあろう。

 感染封じ込めに向け、武漢市が住民の移動禁止や公共交通機関の運行停止に踏み切ってから1カ月が過ぎた。市民の間では不満が高まっており、習政権は早期収束に全力を挙げるとともに正確な情報を国内外に発信しなければならない。

国賓訪日を中止せよ

 全人代が延期されたことで、4月上旬で調整されている習氏の国賓訪日は困難という見方が出ている。

 もともと習氏の訪日をめぐっては、香港に対する政治的締め付けやウイグル族弾圧などを理由に日本では反対意見が強かった。沖縄県・尖閣諸島周辺での中国公船の活動も続いている。これに加え、新型肺炎の感染を拡大させた責任がある。習氏訪日は中止すべきである。