新型肺炎でWHO緊急委から台湾排除
世界の防疫ネットワークに穴
 肺炎で死をもたらす新型コロナウイルスの急速な感染拡大を受け中国は23日、武漢市や近隣2都市の移動制限を発令した。800人以上の死者を出した17年前の重症急性呼吸器症候群(SARS)大流行以来の深刻な事態となっている。ただ課題は、都市の封鎖だけではない。中国の情報の透明性欠落という閉鎖性と政治的な意図による台湾排除が懸念される。
(池永達夫)
憲章「最高レベルの健康追求」に違反?
「人から人への感染が見られるのは明白」としてきた世界保健機関(WHO)は23日、緊急事態宣言は出さなかった。ただ、「国際的な感染拡大で、他国の公衆衛生に危険性がある」「ウイルス封印のため国際的協調が必要となる」との2条件を満たせば、緊急事態宣言を出すという。
それでも中国本土、本土外で感染者は急増を続けている。WHOと各国・各地域の緊密な連携は焦眉の急となっている。
WHOは22、23日の両日、各国の専門家を集め、新型コロナウイルスの感染拡大への対応について協議する緊急委員会をスイスのジュネーブで開いた。開催前の時点で感染が確認されていたタイ、日本、韓国、米国からは専門家が参加したが、台湾は招かれなかった。
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の発症は台湾でも確認され、蔡英文総統はWHOへの台湾加盟を認めるよう改めて呼び掛けた。蔡総統は「台湾は世界的な防疫の最前線だ」と訴える。
台湾は水際の防疫体制を強化、呼吸器に症状が出ている人の継続的監視を続けている。武漢在住の中国市民の台湾入境を停止しただけでなく、香港やマカオを含む中国全土から最近、到着した旅行者に対し、継続的監視対象を拡大した。
台湾は2009年より8年連続でオブザーバーとしてWHO総会に参加してきた。中国と台湾が「一つの中国」に属するという原則を条件付きで認めた中国国民党の馬英九政権(08~16年)下では認め、蔡英文政権下の17年以降は毎年、オブザーバー参加でさえ門前払いが続いている。蔡政権が、「一つの中国」を受け入れず、中国が政治的圧力を加えているためだ。
しかし、世界がグローバル化して、台湾は昨年度、海外から1100万人もの旅行客を受け入れている。200万人以上もの日本人観光客が台湾を訪れ、270万人以上の中国人が台湾を訪問した。こうした中、台湾だけがWHOの枠から抜け落ちているというのは、どうみても不可解そのものだ。
台湾がWHOから抜けたままだと、新型コロナウイルスで初期の措置を誤れば急拡大する恐れがある。また、台湾は渡り鳥が必ず通る所でもあり、鳥媒介の感染拡大リスクも軽視できない。
中国の政治的思惑で台湾をWHOから遠のけ、世界の防疫ネットワークに穴を開けることは、台湾だけでなく人類の健康を脅かすリスクを抱え込むことを意味する。
巨大な堤防もアリの一穴から崩れていく。感染予防も堤防と同じだ。情報の共有と初期手当てが死命を制するリスク管理の常識論からして、その枠から抜け落ちる穴を開けるのは考えられない事柄だ。
ましてやWHO憲章には、「すべての人々が最高レベルの健康を追求すること」を目的と規定した上で、「(この目的は)人種や宗教、政治、社会状況の違いにより区別されない」としている。台湾のWHO参加問題は政治問題ではなく、基本的人権に関わる人道上の問題だ。












