比首都郊外のタール火山噴火

 マニラ首都圏近郊にあるタール火山が噴火し、周辺地域への影響が拡大している。フィリピンの火山地震研究所は、火山活動が長期化する可能性を指摘しており、15万人の避難民が帰宅できる目処は立っていない。マニラ首都圏にも火山灰が到達し、空港が封鎖されるなどの混乱が広がっており、経済活動への影響も懸念されている。
(マニラ・福島純一)

空港封鎖など大きな影響
警戒維持、15万人が避難続ける

 マニラ首都圏から60キロほどの距離にあるバタンガス州のタール火山が、12日に突如噴火した。湖の中央にあるタール火山は景勝地としても知られ、マニラ首都圏から行ける観光地としても有名だ。当日も特に噴火の前兆はなく直前まで観光客が訪れていたが、迅速な避難で噴火による直接の死者はなかった。

タール火山

14日、マニラ近郊タナウアンから望むタール火山の噴煙(AFP時事)

 噴火により上空に舞い上がった火山灰は、火山周辺のみならず風に乗ってマニラ首都圏にも到達。これによりニノイ・アキノ国際空港が封鎖され、すべてのフライトが中止を強いられたほか、学生や職員の健康被害を懸念する政府の通達により、学校や政府機関が一斉に休みとなった。

 火山灰が降り注いだ地域では、健康被害の防止用にマスクが飛ぶように売れて品不足が深刻化。特に粉じん対策用のN95マスクは一時どこの販売店でも品切れとなり、30ペソ(65円)程度のマスクを200ペソ(430円)という7倍近い高値で販売する悪徳業者も出現。行政が規制に乗り出す事態となった。

 火山地震研究所は速やかに警戒レベルを5段階のうち4段階にまで引き上げ、近隣の住人に避難を求めた。警戒レベル4は、差し迫った大きな噴火の危険があり、いつ噴火が起きてもおかしくない状態を示す。タール火山の半径14キロは、噴火に備え住人であっても立ち入り禁止の状態が続いており、避難民は15万人にまで膨れ上がっている。

 政府やボランティアが積極的な支援活動を行っているが、長期化する学校など避難所での生活で体調を崩す避難民も出始めており、これまでに少なくとも3人が避難所で死亡している。

 また、タール火山を望む展望台や飲食店があり、観光収入に依存するタガイタイ市は、避難区域に指定されたことで経済活動が停止した。地元自治体は長期化する避難命令に反発し、商業活動の早期再開を求めた。いつ起こるか分からない噴火に備え続ける疲労感が、被災地域に広がり始めている。

 農業や漁業への被害も拡大しており、被害総額は30億ペソ(約65億円)にまで達している。農業ではタール火山周辺で栽培されているコーヒー豆への影響が特に大きい。また漁業が盛んなタール湖では、噴火による汚染の可能性があるため、政府が獲れた魚を食べないよう呼び掛けている。

 噴火から1週間以上が経過し噴煙も収まっているが、火山地震研究所は22日時点で、タール火山周辺の地表が隆起するなど地下にあるマグマの上昇が観測でき、依然として大きな噴火が差し迫っている可能性があるとして警戒レベル4を維持している。また、過去の噴火記録などから、タール火山の活動が数カ月から数年にわたって続く可能性を指摘し、最悪のシナリオに備えるべきだと説明した。

 タール火山はフィリピン有数の活火山で、1911年の大噴火では1300人以上が死亡したとされている。