台湾総統選挙 中国「拒否」した民意と連帯を
台湾総統選挙で与党・民進党の蔡英文総統が過去最高の得票で再選し、立法院選挙でも同党が過半数を制した。共産党独裁体制の中国が「一国二制度」による統一に向けた戦略を進める一方、香港のデモに対しても弾圧をいとわない強硬姿勢で臨んでいる。危機感を強めた有権者が中国の干渉を明快に拒否した蔡氏にこぞって投票した。
香港情勢を受け蔡氏再選
自由と民主主義を守り抜こうとする民意が示されたものであり、同じ価値観を持つ周辺の国々は、香港区議会選挙に次いで台湾で示された民意と強く連帯し、中国がアジア地域の国々の自由社会の脅威になることを抑止していかなければならない。特にわが国はアジアの指導的立場にある民主主義国として自覚を持ち、台湾をサポートしていくべきだ。
今回は現職が2期目に挑む総統選であり、信任投票の色彩の濃い選挙だったが、2016年に始まる蔡政権は支持率が下降し、楽観は許されなかった。総統選を占う指標でもあった18年の統一地方選挙で、民進党は大敗した。蔡氏は責任を取って同党の主席(党首)を辞任し、今回の総統選候補になれる保証はなかった。
中国は蔡政権発足後、「一つの中国」原則で台湾と国交を結ぶ国々への外交攻勢に拍車を掛け、台湾と断交をさせた。18年までの「断交ドミノ」は5カ国に上る。また統一地方選惨敗で蔡氏が窮地に立たされると、年が明けた昨年1月に習近平国家主席は改めて「一国二制度」による台湾統一を唱え、「武力の使用を放棄しない」との強硬姿勢も示した。
蔡氏の再選の見通しが立たない情勢を一変させたのは、香港で逃亡犯条例改正案の撤回を求める大規模デモと当局との激しい衝突だ。昨年6月に発生したデモは、中国への香港返還記念日である7月1日に警官隊と激しい衝突となったが、中国を後ろ盾とする香港当局のデモ弾圧は極めて暴力的で自由と民主主義を強権で踏みにじるものだ。
自由で開かれた金融と観光の都市香港が、中国への返還22年で丸腰の市民が重装備の警官隊に殴り放題殴られ、催涙弾を水平射撃される衝撃的な動画が世界に発信された。中国の「一国二制度」の実態が露呈し、「今日の香港は明日の台湾」との危機感を持つ有権者に、親中派の最大野党・国民党の候補は歯切れが悪く、いち早くストレートに向き合ったのが蔡氏だった。
香港だけでなく、新疆ウイグルなどで自由や人権よりも一党支配を優先する共産党の統治を進める中国に対し、国際社会が懸念を示したことも蔡氏再選を後押ししたと言えよう。米国のトランプ政権は台湾に理解を示しており、蔡氏再選にポンペオ国務長官が期待を表明した。
「現状維持」を支援せよ
台湾はアジア太平洋の自由の砦(とりで)として、わが国と共に地政学的にも重要な位置にある。米国は台湾を軍事・経済的に支援する法整備をしており、日米安保条約を結ぶわが国も周辺事態に備え得る。台湾の「現状維持政策」を積極的に支援し、近くて近い国として友好関係を築いていくべきだ。