比ミンダナオ島の戒厳令を年内に解除へ

治安改善も続く襲撃事件

 フィリピンのドゥテルテ大統領が、フィリピン南部ミンダナオ島に布告した戒厳令を延長しない方針を示した。イスラム過激派によるテロへの対策として延長され続けてきたが、観光や投資への影響のほか、人権問題の側面からも反対の声が強まっていた。戒厳令解除の一方で、政府はそれに代わるテロ対策法案の可決を急いでいる。
(マニラ・福島純一)

対テロ法案に人権弾圧懸念も

 戒厳令は2017年5月に起きたイスラム過激派マウテグループによるマラウィ市占拠事件をきっかけに布告された。これまで3回の延長を繰り返してきたが、観光業界や投資などへの影響からダバオ市が地域限定で戒厳令の解除を求めるなど、延長をめぐる議論が高まっていた。

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2017年6月、フィリピン南部ミンダナオ島マラウィ市で、空軍がイスラム過激派の拠点を空爆し、白煙が立ち上る様子(AFP時事)

 12月31日の戒厳令の延長期限切れを前にロレンサナ国防長官は、再延長を支持しない考えを示し、議会で審議されている対テロ法案の改正が実現すれば、戒厳令はもう必要ないとの見解を示していた。

 10日に大統領府のパネロ報道官は、ミンダナオ島に布告されている戒厳令を延長しない方針を明らかにした。国軍の掃討作戦によるイスラム過激派の弱体化や、治安改善が確認されていることから、ドゥテルテ氏がこれ以上の延長は必要がないとの判断を下したと説明した。

 その一方でドゥテルテ政権は対テロ法案として人間安全保障法の改正を目指しており、上下両院で審議が続けられている。現状ではテロリストと疑われる容疑者を逮捕した場合、拘束は3日間が限界となっているが、改正案では14日間まで延長可能となっている。

 しかし、ロレンサナ国防長官や元国家警察長官のデラロサ上院議員などは、テロ容疑者を逮捕した場合、少なくとも30日間の拘束をできるようにすべきだと主張している。

ドゥテルテ大統領

ドゥテルテ大統領(AFP時事)

 ただ、この法案をめぐっては、戒厳令以上に人権弾圧に利用される可能性があるとの懸念も高まっている。フィリピン・ジャーナリスト連合は、改正案におけるテロリストの定義が曖昧で、当局から情報源の開示を求められても拒否した場合など、ジャーナリストが共犯者として扱われる恐れがあり、表現の自由が危険にさらされる可能性があると指摘。30日間の拘束期間も長過ぎて、基本的人権を無視するものだと批判した。

 治安の改善が認められるとされるミンダナオ島だが、依然としてイスラム過激派のテロ活動は続いている。

 南サンボアンガ州では10月にリゾート施設が武装集団に襲撃され、経営者の英国人男性とそのフィリピン人妻が誘拐される事件が起きた。人質の2人は11月25日にスールー州でイスラム過激派のアブサヤフに拘束されているところを、捜索活動を行っていた国軍部隊によって救出された。

 また11月にはスールー州で、アブサヤフとみられる3人組のテロ容疑者が国軍の検問で銃撃戦となり、射殺されている。容疑者からは拳銃や手榴(りゅう)弾のほか、爆弾が装着されたベストも回収されており、自爆テロを試みていたと考えられている。射殺された3人のうち2人はエジプト人だった。同州では9月にも外国人女性とみられるテロリストによる国軍施設への自爆テロが行われるなど、外国人テロリストが依然として活動している実態も浮き彫りとなっている。戒厳令解除となる来年も治安回復が見られるのか、ミンダナオ島情勢はなお予断を許さない。