令和の天皇皇后両陛下と日本
国民に寄り添い 平和に貢献
生田神社名誉宮司 加藤 隆久氏に聞く
11月28日、天皇皇后両陛下に京都御所での茶会に招かれた加藤隆久・生田神社名誉宮司に、両陛下のご様子や兵庫県とのゆかりを伺った。神戸市中央区の生田神社(日置春文宮司)では11月、陛下のご即位を記念して、大嘗祭に関わるお供え物や祭具、装束類などの絵図を収録した江戸時代の「大嘗祭由加物雑器私図」をカラーで復刻した。
(聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)
国際的な御活躍に期待の声
皇后陛下と二人三脚で
お茶会での両陛下は。

かとう・たかひさ 昭和9年、岡山県生まれ。甲南大学文学部卒業後、國學院大學大学院文学研究科専攻修士課程を修了し、生田神社の神職の傍ら甲南大学、神戸女子大学などで教鞭(きょうべん)を執る。神戸女子大学教授、生田神社宮司を務め、神社本庁から「長老」の称号を受けた。文学博士。現在、生田神社名誉宮司、神戸女子大学名誉教授。兵庫県芸術文化協会評議員、神戸芸術文化会議議長、世界宗教者平和会議監事などを務めている。
モーニング姿の天皇陛下は、水色のロングドレスの皇后陛下と大型テントの会場に入られ、参加者と歓談されました。両陛下のお健やかなお姿を拝し、誠にありがたく感激しました。
皇后陛下は明るく自信に満ちて、その笑顔が陛下のなによりの原動力となっていることがうかがえます。令和の新たな旅路を、陛下は皇后陛下と力強く歩まれていかれるでしょう。
即位礼の一連の儀式が無事に終わりました。
「令和」の始まりとともに、59歳の陛下は上皇陛下の活動を継承しながら、自らの象徴天皇像を模索する旅の第一歩を踏み出されたのです。即位後初めて国民の代表者と会う「朝見の儀」では「常に国民を思い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い、国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望します」と、天皇としての最初の「おことば」を述べられました。30年余り前の同じ儀式で上皇陛下が語られた文言をほぼなぞり、上皇陛下が築かれた象徴天皇像を踏襲する意思を打ち出されました。
8月15日、日本武道館での全国戦没者追悼式に初めて臨まれた陛下は、「過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い…」とおことばを述べられました。上皇陛下がこれまで追悼式で述べられた「深い反省」という表現を用いられるなど、おことばの大半を継承され、平和の誓いを新たにされました。
陛下は平成15年2月の誕生日の記者会見で、「戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切」と述べられました。上皇陛下や上皇后陛下から戦争の話を聞いて育ち、広島や長崎、沖縄を訪れると慰霊碑や戦争関連施設に足を運ばれるなどしてこられました。国内外で戦没者慰霊を重ねられた上皇御夫妻の姿に感銘を受けたとおっしゃり、皇后陛下と共にその思いを引き継ぎ、次の世代につなぐご意志も示されています。
皇太子時代から皇后陛下と共に東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県を計9回訪問され、上皇陛下、上皇后陛下のように、膝を折って人々を励まされ、復興を担う若者たちとの交流などで被災者に寄り添ってこられました。
陛下は史上初めて留学経験のある天皇です。
陛下はこれまで30カ国以上を公式訪問され、会見では「国際親善とそれに伴う交流活動も、皇室の重要な公務の一つ」と述べられています。海外生活が長く、外交官でもあった皇后陛下と二人三脚で、国際社会でのご活躍を期待する声は多いですね。
即位後間もない5月には、令和初の国賓として米国のトランプ大統領夫妻を迎え、陛下は皇后陛下と共に歓迎行事や会見、宮中晩餐(ばんさん)会に臨まれました。英語が堪能な両陛下が通訳を介さずに大統領夫妻と言葉を交わされるお姿から、諸外国との友好親善に力を注ごうとされる意気込みが伝わりました。
水問題については…
これまでの会見で陛下は「国民と苦楽を共にしながら、国民の幸せを願い、象徴とはどうあるべきか、その望ましい在り方を求め続けることが大切」と語られ、「時代に即した新しい公務」を見いだし、社会の要請に応じる重要性も説かれてきました。新たな公務の一つが、陛下がライフワークと位置付ける「水問題」への取り組みです。
陛下はご幼少の頃から「道」に興味をお持ちでした。そこから「水の道」へと関心を広げられ、学習院大学では中世の瀬戸内海の海上交通について、室町時代の兵庫北関(今の神戸港)に入港した船舶の記録「兵庫北関入船納帳」を研究されています。留学されたイギリスのオックスフォード大学では17~18世紀のテムズ川の水上交通を研究されました。「水運」へのご関心は「水問題」へと発展し、国際的な取り組みにも関わられるようになります。
世界水フォーラムでは名誉総裁として記念講演をされ、国連水と衛生に関する諮問委員会の名誉総裁を8年間お務めになりました。今年2月の会見では「水問題への取り組みで得られた知見も、これからの務めの中で国民生活の安定と発展を願い、防災・減災の重要性を考えていく上で大切に生かしていきたい」と語られています。
兵庫県との関わりは。
陛下は20回以上、来県され、とりわけ印象深いのは平成7年に起きた阪神・淡路大震災の被災地慰問です。陛下は震災後1年と5年、15年に「1・17」追悼式典にご臨席され、上皇御夫妻と代わる代わる被災者を励ましてこられました。
陛下は11歳の時に姫路城や神戸港を周遊されたのを皮切りに、学習院大学時代にはゼミ旅行で淡路や丹波に行かれ、夏の全国高校野球選手権大会で始球式をされたり、平成10年の明石海峡大橋開通式典や14年の「人と防災未来センター」開所式典など、兵庫県の大きな節目に立ち会ってこられました。
絵図を発刊したのは。
令和の御大典を奉祝する記念事業の一つです。私が所蔵していた江戸時代後期の「大嘗祭由加物雑器私図」の保存状態が良く、絵図の多くが大嘗祭に関するものでしたので、即位礼、大嘗祭に合わせて復刻版を出すことにしました。私が『神戸史談』に執筆した「光格天皇御即位式絵図を巡って-明治即位礼式の考察」も収録してあります。





