香港デモ、強硬一辺倒では解決できぬ
中国の習近平国家主席は、反政府抗議活動が続く香港の林鄭月娥行政長官との会談で「暴力活動を法律に基づいて制止し処罰する」ことを徹底するよう求めた。
しかし香港で反政府デモが続いている背景には、習氏が香港に適用すべき「一国二制度」を形骸化させていることがある。習氏や香港政府はデモを力づくで抑え込もうとするのではなく、民主化を求める香港市民の声に耳を傾けるべきだ。
警察の手法に市民が反発
会談ではまず、林鄭長官が香港情勢について報告。これに対し、習氏は「暴力の制止と混乱の収拾、秩序の回復が香港の最重要任務だ」と指摘した。より強硬な姿勢でデモに対応するよう求めた可能性がある。
中国共産党は、先月末に閉幕した第19期中央委員会第4回総会(4中総会)で、香港に関して「国家安全を維持する法と執行制度の確立」を明記した。民主化を求めるデモの封じ込めに法的裏付けを与えることは容認できない。
香港では、警官隊とデモ隊の衝突現場付近で負傷し、重体となっていた男子大学生が死亡した。抗議活動に関連して死者が出たのは初めてとなる。催涙弾やゴム弾を使い大量のデモ参加者を逮捕する警察の強硬な手法にはかねて市民の反発が強く、大学生の死でデモ隊が一層過激化することも考えられる。
もちろん、どのような理由があっても、デモ隊が店舗を破壊するなどの行動に出ることは許されない。ただ、もともと非暴力デモに参加していた若者が、現状が変わらなかったために実力行使に走るケースもある。デモに対して強硬一辺倒では真の解決にはつながるまい。
デモのきっかけは、香港で身柄を拘束された容疑者の中国本土への移送を可能にする「逃亡犯条例」改正案だった。中国の司法は共産党の指導下にあり、党の意向に沿わない人物の恣意(しい)的な拘束もあり得る。香港市民が危機感を強めたのは当然だ。
香港政府は先月、改正案を撤回したが、市民の不満の矛先は今や、警察や香港政府、中国政府に向かっている。香港の世論調査では林鄭氏の支持度が過去最低を更新し、デモ隊は警察の責任追及や普通選挙の実施など「五大要求」を掲げている。
習氏は、一国二制度について「一国」を「二制度」よりも優先するとしている。だが、一国二制度は香港の高度な自治を保障するものであり、1984年の英中共同声明でも香港の自治と自由を尊重するとしている。習氏の方針は国際公約に反するものだと言わざるを得ない。
中国の締め付け許すな
国際社会も中国への批判を強めている。ペンス米副大統領は先月の対中演説で、香港のデモについて「われわれは香港の人々と共にある」と連帯を表明。中国に対しては「抗議する人たちに暴力を用いれば、貿易交渉を妥結することは難しくなるだろう」と牽制(けんせい)した。
安倍晋三首相も中国の李克強首相との会談で「自由で開かれた香港」が繁栄していく必要性を指摘した。国際社会は中国による香港への締め付けを許さない姿勢を示すべきだ。