「質的優位」維持に逆行する米 米大西洋評議会上級研究員 ロジャー・クリフ氏に聞く(上)

新QDRと米中軍事バランス

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ロジャー・クリフ 米カリフォルニア大で修士号、プリンストン大で博士号を取得。国防総省国防長官室、有力シンクタンクのランド研究所や戦略予算評価センター(CSBA)などを経て現職。

 オバマ米政権が発表した「4年ごとの国防計画見直し(QDR)」の下で、米国は軍拡に邁進(まいしん)する中国に対し優位を維持できるのか。アジア太平洋地域の軍事バランスが崩れつつある中で、日本は何をすべきなのか。中国軍事動向に詳しい米シンクタンク、大西洋評議会のロジャー・クリフ上級研究員に聞いた。(聞き手=ワシントン・早川俊行)

 ――新たなQDRと2015会計年度(14年10月~15年9月)国防予算をどう見る。

 QDRと国防予算は、中国に対し軍事的優位を維持するために必要なトレードオフ(何かを実現するために別の何かを犠牲にすること)をしていない。

 米軍は近代化計画を加速させつつ、質の高い人材・訓練を維持する必要がある。一方で、基地使用の制約から、現在の米軍兵力の多くは中国との紛争には利用できない。従って、私は兵力を縮小して近代化のための資金を確保すべきだと考える。

 だが、国防総省はその反対の道を選んでしまったようだ。QDRには詳細が書かれていないが、国防予算によると、運用・整備(O&M)費、つまり、現在の兵力への支出は3%増えるのに対し、兵器調達費は2%削減された。小さな変化だが、進むべき道とは反対の方向であり、これが毎年続けば、重大な影響をもたらすだろう。

 ――対中優位維持のために、近代化がなぜ重要なのか。

 中国軍の急速な近代化により、米軍が保ってきた大きな技術的優位が失われているからだ。私の見積もりでは、中国軍は2020年に00年の米軍と同等になる。中国はまだ米国から20年遅れていることになるが、米軍が00年に有していた戦力と20年に保有すると予想される戦力には大きな違いはない。

 例えば、空軍では、F22とF35の第5世代戦闘機が数百機加わるが、中国も20年までに第5世代戦闘機を保有しているだろう。爆撃機は搭載する兵器の性能が向上するものの、爆撃機自体は00年と同じものだ。

 海軍は、イージス駆逐艦を旧型から新型に、潜水艦をロサンゼルス級からバージニア級に入れ替えており、空軍よりはましだ。だが、これらの艦艇は00年の時点で既に建造が始まっていた。また、海軍はズムウォルト級ミサイル駆逐艦や沿海域戦闘艦(LCS)など、中国との紛争には適さない艦艇の開発に20年を浪費してしまった。

 陸軍も防空・ミサイル防衛能力を除き、対中国では特に重要な役割を果たさない分野の近代化に20年を浪費した。

 この結果、米軍の装備は00年時点で中国の1世代先を行っていたが、その優位は20年までに半世代以下になるだろう。

 既に述べたが、現在の米軍兵力の多くは中国との紛争には使えない。米軍は2000機以上の戦闘機を保有しているが、中国との紛争では500機分の基地を確保することさえ難しい。大西洋に配備されている海軍艦艇も、中国との紛争には間に合わない可能性が高い。結果として、中国は米国に対し「数的優位」に立つことになる。米国がこれを克服するには、「質的優位」を確保するしかない。

 ――QDRと国防予算は陸軍を大幅に削減し、海空軍の近代化を継続する方向性を示したように見えるが。

 海空軍も削減しなければならない。また、近代化予算は不十分だ。

 重要なのは、近代化予算をどこに投じるかだ。QDRには詳細が書かれていないが、中国との紛争で最も重要となる能力に焦点を当てるのではなく、緩やかな近代化を一律に進めていくという現在の思考方法に何の変化もない。