金正恩第1書記 「中長期政権」の岐路に

2016 世界はどう動く-識者に聞く(14)

元韓国治安政策研究所研究官 柳東烈氏(上)

北朝鮮は新年早々「水爆」と称し4回目の核実験に踏み切った。北の狙いは何か。

柳東烈氏

 ユ・ドンヨル 1958年生まれ。韓国中央大学大学院卒。国家情報学会監事、自由民主研究学会名誉会長。北朝鮮の権力構図や対南工作の分析で定評がある。

 まず政治的な意味は実権を握って5年目に入り、強盛国家建設に向け強い意思を誇示したかったのだろう。5月に予定されている第7回朝鮮労働党大会ではこれまで党がしてきたことへの「総括」をするとみられるが、そのための業績が必要だったこともある。対外的には核保有国のわれわれに手出しをするなという恫喝だ。

 核工学的には核システムの向上には実験を何度も重ねなければならない。補強に補強を重ね、今後も5回目、6回目の核実験を行う可能性が非常に高い。

水爆だった可能性には否定的な見方もあるが。

 問題は水爆かどうかではなく、北朝鮮がすでに核を保有し、開発を継続しているという脅威が厳然としてあるということだ。1997年に韓国に亡命した黄長”・元党書記は約10年ほど前、北朝鮮が水爆開発をしており自分が最後に北朝鮮にいた時には「あと15年くらいで完成する」と言っていたと証言した。

北朝鮮に核を放棄させるにはどうすればいいか。

 これまで6カ国協議などの外交的アプローチや国際社会による経済制裁が行われてきたが、前者は北朝鮮が言うことを聞かず、後者も中国が最終的には北朝鮮を枯渇させることには反対する立場を堅持してきたため効果がなかった。残るのは特殊部隊を派遣して物理的に核システムを無力化する軍事作戦だが、これを決断できる韓国大統領がいるだろうかという問題がある。北の核に対抗する自衛用の核武装論も与党幹部から浮上しているが、実際に実行に移すだけの政治力があるかは疑問だ。

 外交、経済制裁、軍事のいずれの方法でも難しければ、表現は少し過激だが核の「上位概念」である最高指導者・金正恩第1書記に対するレジーム・コラプス(政権崩壊)も視野に入れ、その誘導方法を模索する以外に道はないのではないか。

北朝鮮にとって今年はどのような年になりそうか。

 重要な年だ。2011年に金正日総書記が死去し、名実ともに最高指導者になってから5年になる。北朝鮮は5年ごとの節目を大事にする国だ。

 また新年の演説でも言及していたが、5月に開かれる36年ぶりの党大会は金第1書記の権威を高める重要な行事になる。党大会では「総括」と「未来像の提示」がなされる。本来、党規約では5年ごとに開催されなければならないが、「総括」するには食糧難など国内事情が悪すぎて金日成主席や金総書記は党規約を無視して開催してこなかった。金第1書記は祖父も父も長く開催できずにいた党大会を最高指導者になってわずか5年の自分がやることで権威付けできるわけだ。個人的には金第1書記は今年を乗り切れば中長期政権への道が開かれると見ている。

内部の権力闘争はあるだろうか。

 側近の一人であった崔竜海・党書記が3カ月ぶりに公の場に姿を現したが、条件付きの復権と見るべきで、いつでも粛清の対象になり得る。金第1書記に挑戦する勢力や側近が存在しにくい。極端な恐怖政治による統治が続いており、側近たちの金第1書記への忠誠心は表面的で保身のためのものにすぎない。「安定の中に不安定要素あり」というのが現状だろう。

(聞き手=ソウル・上田勇実)