自衛隊悪玉論の報道
今月15日、広島県大竹市の阿多田島沖の瀬戸内海で、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突し、釣り船が転覆。乗っていた2人が亡くなった。
現在、衝突の事故原因については、海上保安庁が調査中だが、海上自衛隊が絡んだ事故は、過去にもたびたび起きている。そのたびにマスコミは、事故原因が特定される前から、自衛隊悪玉論を常に展開してきたことは、周知の通りだ。
その中でも、昭和63(1988)年7月23日に浦賀水道で発生した海上自衛隊の潜水艦「なだしお」と、釣り船「第一富士丸」の衝突事故直後の報道には、特に問題があったと思う。この時の事故では、釣り部の乗客・乗員30人が死亡している。
NHKは事故発生からかなり経った時点(溺者はすでに救助された後)の「なだしお」艦上にいた10名前後の隊員の姿を映したビデオを流しながら、「見つめたまま誰も助けなかった」という虚構のナレーションとダブらせて放映した。
これを見た国民は間違いなく、自衛隊に対して悪い印象を持つに違いない。これらはどう見ても、作為的な自衛隊悪玉論(偏向報道)というものであった。この事故の責任をとり、当時の防衛庁長官が辞任に追い込まれている。
「なだしお」事故の真相については、平成元(1989)年に出版された原正壽著『マスコミ煽動』(全貌社)に詳しく書かれているので、興味がある読者は一度、目を通してほしい。マスコミがまったく報道しなかった釣り船「第一富士丸」の問題点が綿密な取材を通じて明らかにされている。
平成20年2月19日に、千葉県房総沖でイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突し、漁船に乗っていた父子が亡くなった時も、マスコミは自衛隊悪玉論を展開し、「なだしお」事故と同じような報道に終始していた。
ところが今回の「おおすみ」事故では、マスコミは冷静な報道を行っている。マスコミの一方的な自衛隊悪玉論報道からの変化は評価したい。
(濱口和久)