誤解招く二階発言だが共産党の尻馬に乗り与党批判に利用する朝毎

◆気象庁が異例の対応

 「予測されて色々言われていたことから比べると、まずまずで収まったという感じだ」。自民党の二階俊博幹事長が台風19号の被害を受けて開いた党の緊急役員会でこう述べた。これを朝日と毎日は問題発言として報じ(14日付)、批判にさらされた二階氏は発言を撤回した。

 台風19号がもたらした豪雨は東日本の各地を襲い、堤防決壊は実に52河川73カ所に上った(15日現在)。被害がこれほど広範に及んだ台風禍は過去に例がない。全容はまだ判明していない。二階氏は会合後、記者団に「日本がひっくり返されるような災害、そういうことに比べれば、という意味だ。1人亡くなったって大変なことだ」と釈明したが、「まずまずで収まった」は誤解を招く表現だろう。

 とはいえ、二階発言はあながち否定できない。気象庁は台風19号の上陸前から異例の対応を取っていた。朝日12日付はこう書いている。

 ――11日にあった気象庁の会見。壇上の梶原靖司予報課長が触れたのは、60年以上前の大災害だった。

 「狩野川台風に匹敵する記録的な大雨となる恐れがあります」

 狩野川台風では大雨で川が氾濫(はんらん)するなどし、1200人超の犠牲者が出た。これまで気象庁は、危機感を的確に伝え切れないとして、過去の台風や災害を積極的に例示してこなかった。今回踏み込んだのは勢力や進路などがあらゆる点で類似していたからだ――

 気象庁は大規模被害が発生する可能性を示唆していた。本欄1日付で紹介したが、朝日9月26日付は「超大型の台風や高潮、荒川と江戸川の氾濫などが同時に起きた場合、東部5区を中心に広域避難する都民は最大で255万人に上る」とし、「浸水想定、公表まだ5都県」と避難対策の遅れを批判していた。

 255万と簡単に書くが、これほど多くの都民がいったいどこに避難し、どう凌(しの)ぐのか、想像に絶する。千曲川の氾濫現場を見るまでもなく、おそらく居宅は泥に埋まり、あるいは流されて帰る先がなくなっていることだろう。

◆「甚大」の認識に大差

 朝日記事にはないが、ネットで「首都圏における大規模水害の被害想定結果の概要」を検索すれば、被害規模の巨大さに驚愕(きょうがく)するはずだ。例えば、荒川右岸の低地で氾濫が発生した場合、想定死者数は約2000人。今回、氾濫危険水域を一時超えた利根川では約2600人。東海地方に「スーパー伊勢湾台風」が来襲すれば、約2400人の犠牲者が出ると東京9月26日付社説は警告していた。

 19号は関東直撃のスーパー台風とされた。こういう惨状が念頭にあれば、二階氏ならずとも「まずまずで収まった」との感想を抱くのではあるまいか。

 毎日によれば、共産党の小池晃書記局長はツイッターに「甚大な被害が『まずまず』ですか?そんな認識でいいんですか?」と批判しているが、「甚大な被害」の認識が小池氏と二階氏では雲泥の差があったに違いない。朝日と毎日は小池氏レベルの認識で共産党の尻馬に乗って問題発言として報じ、与党批判に利用したとするなら、それこそ「そんな認識でいいんですか?」と言いたくなる。

◆救助を急ぐのは当然

 朝日と毎日の14日付社説を見ると、申し合わせたように「被害把握と救助を急げ」(朝日)、「救助と実態把握に全力を」(毎日)とする。救助は急ぐのは大新聞に言われるまでもないことだ。安倍政権が2013年に作った「防災・減災等に資する国土強靭(きょうじん)化基本法」は政策大綱でこう述べている。

 「いかなる災害等が発生しようとも、人命の保護が最大限図られること、国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること、国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化を図る」

 批判ばかりの朝毎や野党より、こっちの方がよほどか頼りになりそうだ。誤解を招く二階発言だが、真実はある。

(増 記代司)