「LGBT」への生殖補助医療実施で問われる病院とメディアの責任
◆学会指針に反し実施
いわゆる「LGBT」(性的少数者)に関するテレビ番組や新聞記事が最近、めっきり減ったと思っていたら、日経10月7日付に、注目すべき記事が載った。「指針想定外、4施設で LGBTに生殖医療実施」の見出しで、国内の医療機関を対象に、人工授精などの実施実態を調べた岡山大学の調査を報じたものだ。記事は共同が配信し、東京にも載った。産経も1段見出しで、短く報じていた。
内容を紹介すると、レズビアン(女性同性愛者)のカップルのいずれかに、第三者が提供した精子で人工授精した施設が2施設。体は男性、心は女性だが、体は男性の精子を凍結保存したのが3施設あった。そのうち、1施設は両方実施したと回答したので、4施設がLGBTに対する想定外の生殖補助医療を行っていたというのである。このほか、ゲイ(男性同性愛者)のカップルが代理母によって子供をもうけたいとして来院したケースなども41施設であった。
調査は日本産科婦人科学会に登録する全国1131施設を対象に行い、そのうち492施設が匿名で回答した。なぜ匿名回答なのかと言えば、前述のような生殖補助医療は学会の指針に反するからだ。記事は「全国規模でLGBTへの生殖医療の実態が明らかになるのは初」としたが、学会の指針に反する生殖補助医療は4施設どころではないだろう。
これまでNHKをはじめとした多くのテレビ、新聞は「当事者の人権」の観点から、LGBT問題を論じ、その結果として運動を後押しする形となってきた。しかし、この問題で最も重要なのは生命の尊厳と子供の人権をどう守るか、という視点であろう。
◆父親が不明の状況に
学会の指針は生命倫理の観点から、生殖補助医療をむやみに拡大させないことを基本原則として、不妊症のために自然には子供を持つことができない夫婦に限っている。その原則の中でも、第三者の精子を使った人工授精には現在、自分の父親を知る権利を子供から奪っているとして反対の声が上がっている。
また、独身者の精子や卵子の冷凍保存でも、がんなどの治療で生殖機能が損なわれる恐れがある人が対象になっているのであり、性別適合手術は含まれていない。そこには、子供を生む個人の権利だけでなく、生まれてくる子供の福祉の視点から、親が誰か分からなかったり、一方の親が最初からいなかったりする状況をつくらないという考え方がある。
もし、この考え方を崩して、無原則にLGBTに対する生殖補助医療を認めるとどうなるのか。レズビアン・カップルのいずれかに、第三者の精子で人工授精した場合、生まれてくる子供は、父親が誰か分からないばかりか、母親2人の下で育つことになる。
心が女性で、体が男性の場合、精子の冷凍保存を認めても、子供にとって深刻な事態が生じる恐れがある。当人が性別適合手術を受けて「女性」となったとする。当人がレズビアンであれば、相手の女性に冷凍保存した精子で人工授精することを考えるかもしれない。しかし、それを認めれば、生まれた子供にとって、母親が2人いる上、そのうち一人は「元男性」になってしまう。
◆子供の人権侵す恐れ
このように自然では想定されない複雑な環境も、多くのメディアは「新しい家族の形」としてポジティブに紹介してきた。しかし、子供の成長にどのような影響を与えるのかは未知数であるばかりか、人権を著しく侵害する恐れもある。だから「同性婚」を認める欧米でさえも、LGBTへの生殖補助医療は制限すべきだとの声が高まっている。
自然に子供が生まれる可能性のある男女の関係と、それはあり得ない同性の関係には、明確な区別が必要だ。しかし、日本のメディアの多くは「愛に差はない」と強弁し続けてきた。この問題で生殖補助医療を実施した医療機関の責任が問われるのはもちろんのことだが、メディアの責任も大きい。
(森田清策)