反発する香港・台湾と迷走する韓国、揺れる東アジア3国を分析した2誌
◆現地の様子生々しく
連日報道される香港市民のデモ活動。いまだに収束する気配はなく、むしろ中国当局が配備した警察官による発砲事件が起こるなど過激さを増すばかり。一方、来年1月に総統選挙を迎える台湾では、政権与党の民進党が反中国を鮮明にし、対決姿勢をあらわにしている。
「一つの中国」を盾に武力行使も辞さない構えを見せながら「アメ」と「ムチ」を使い分け、台湾をのみ込もうとする中国政府。対してあくまでも中国とは一線を画した中台関係の維持構築を目指す蔡英文政権。両者のせめぎ合いが続く。もう一つ、東アジアの一角を占める韓国といえば、戦後最悪の日韓関係もさることながら、韓国経済の減速が目立つ。
この香港、台湾、韓国の最近の情勢に二つの経済誌が焦点を当てた。一つは週刊東洋経済(10月5日号)の「危うい超大国 中国」。もう一つは週刊エコノミスト(10月8日号)の「大揺れ!香港、台湾、韓国」である。東洋経済の特集では、見出しは中国経済全般を捉えたものだが、具体的な記事の内容は香港、台湾、韓国を個別に見ながら論評している点では、エコノミストと共通している。東洋経済の記者が香港のデモをルポルタージュし、現地の様子を生々しく描いているが、ここ数カ月の動きが、以前のデモ活動と違う点を強調する。
◆募る中国化への不安
2014年の「雨傘運動では3カ月弱で運動が収束に向かった。道路の占拠などで市民生活に影響が出たうえ、経済に悪影響をもたらし社会全体の支持を徐々に失ったためだ。…ところが今回はすでに4カ月以上経過してもデモ隊への支持はおちていない」とし、その要因については、「香港の国際的な価値は自由で開放的なところ。にもかかわらずそれが中国中央政府に保証されないことに不満が募る」と指摘する。
デモ側の市民は香港行政府に対し、五つの要求を突き付けている。このうち、「逃亡犯条例」改正案は廃案になったものの、普通選挙の実現など他の四つは実現されていない。ましてや隣の広東省深★に中国当局の武装警察を集結させている点を見れば、中国政府を信用するどころか、香港の中国化への不安は募るばかり。
こうした香港の動向を注視しているのが台湾だ。エコノミストは、一連の香港の動きが台湾民進党に有利に働いていると分析する。「香港における『一国二制度』の有名無実化が白日の下にさらされた。…中国本土との経済関係を重視する現実的な台湾人にも意識の変化をもたらした可能性は否定できない」(松本はる香・JETROアジア経済研究所東アジア研究グループ長代理)と明言する。
そもそも「一国二制度」は中国共産党が香港返還決定以前から打ち出した構想であったが、それはいわゆる建前であって、時が来れば「一国一制度」に組み込むという思惑があった。そうした狙いが現実化したのが香港の事件であって、それに台湾が非常な危機感を抱いている。
◆選択肢多くない韓国
一方、韓国の状況はといえば、明るい材料は見当たらない。日韓関係は戦後最悪と言われるほど軋轢(あつれき)を深めているが、何よりも韓国経済の不振が際立っている。その要因は貿易・投資分野でこれまで中国傾斜を強めていたが、折からの米中貿易戦争で中国経済が減速することで、その余波を受けているという格好だ。今回の米中貿易戦争は単なる経済戦争ではなく背景にイデオロギー闘争があるだけに長期化の様相を呈している。「(韓国の)中国頼みの成長戦略は完全に裏目に出ている」(エコノミスト)と指摘するように、韓国は成長戦略の練り直しが求められているが、その選択肢はそれほど多くない。
東アジアで大揺れの3国。それは日本にとってもひとごとではない。香港市民の抗議、また台湾民進党の主張は、まさに自由主義を堅持し中国共産党に組み入れられることに「断固拒絶」の姿勢を示す戦いを顕示していることを忘れてはいけない。
(湯朝 肇)
★=土へんに川