国会代表質問での枝野氏の「3点セット」追及をなぞった朝・毎の社説
◆久しぶりの国会論戦
「中長期の課題をいかに解決していくか。与野党は、大所高所から論じなければならない」(読売・8日付社説)。
衆院本会議で7日から、安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が始まり、まず立憲民主党の枝野幸男代表、自民党の林幹雄幹事長代理が質問し、論戦の火蓋を切った。およそ3カ月半ぶりとなる本格的な国会論戦である。
冒頭のように読売、朝日、毎日、小紙の4紙が翌8日付で、首相と枝野氏の初日論戦にテーマを絞った社論を掲げた。
枝野氏は原発利権に絡む関西電力役員の金品受領問題、「表現の自由の名の暴力」(河村たかし名古屋市長)などと実行委員会に名を連ねる自治体首長までが強い政治的主張を持つ作品展示を激しく批判する企画展「表現の不自由展・その後」への文化庁の補助金不交付などの「3点セット」や消費税問題を中心に首相を追及した。関電問題では「原発マネーそのもの」と糾弾。政府が主導して真相解明することを要求。企画展への文化庁の補助金不交付などでは「報道・表現の自由が機能しない社会は民主社会とは言えない」と批判したのである。
◆憲法改正に言及せず
朝日と毎日の社論は、枝野氏の3点セットの主張をなぞる形で、それぞれ首相の答弁に対して「首相は正面から答えよ」(朝日)、「『関電』『かんぽ』は人ごとか」(毎日)と批判した。表現・報道の自由の危機に言及した枝野氏に、首相が安倍政権への連日の報道を見れば「萎縮している報道機関など存在しない」と答弁したことに、朝日は「開き直ったようなこれらの発言からは、公権力が言論や表現活動を抑圧してはならないという謙虚な自覚はうかがえない」と批判。毎日も同様に、首相の答弁は「相変わらずおざなり」「まるで人ごとのようだった。国民に対して不誠実だと言うべきだ」と切り捨て、首相に姿勢を改めることを求めた。
ただ毎日は、その返す刀で枝野氏の姿勢にも「首相が目指す憲法改正に関し、なぜ直接、言及しなかったのか」注文を付けて迫った。「これでは改憲に関して会派内の意見が分かれているから、言及を避けたのでは」とみられると諭した。主張への賛否は別にして、少なくとも毎日の社論は朝日と比較して公平・誠実だと言ってよかろう。
◆矛盾した消費税批判
読売と小紙は、枝野氏が消費税10%への引き上げについて「消費が回復していない中、著しく問題だ」と批判したことを逆批判したのが目を引く。
増え続ける社会保障費用を賄うために消費税は安定税源となる、とした上で読売は「高齢者を含め、国民が広く負担する消費税率の引き上げは、公平性の観点からも妥当」と評価。その上で枝野氏が消費増税の代替に「法人税や所得税の課税強化を求めたこと」に大きな疑問符を付けた。増税は、企業の海外への拠点移転を促進させ「働く意欲をそぎ、社会の活力を低下させないか」と問う。そして「責任野党を掲げるならば、分配に偏らず、経済を成長させる現実的な方策を考えるべきだ」と諭す。同感である。
小紙はさらに枝野氏が民主党政権時代に、消費税率10%への引き上げを主導し、その枝野氏が今回の消費増税で「安倍政権を批判するのは矛盾」だと指摘。さらに「枝野氏ら立憲は共産党を含めた野党共闘の中軸であり、米下院選で一部台頭した民主党左派の『社会民主主義』にも影響されたとみえる。大企業、富裕層への課税の強化など社会主義的な訴えを強めた印象だ」と懸念したのである。これが杞憂(きゆう)にすぎなければいいのだが。
ところで、産経は9日現在、各党代表質問をテーマとする社論(主張)を掲げていない。その代わりなのか、論説副委員長(榊原智氏)がオピニオン面(8日付)の「風を読む」で、安倍首相が所信表明演説で100年前のパリ講和会議で日本が演説した「理想」に言及したことに触れ、今日の日本の在り方への教訓を引き出している。これはこれで見識である。
(堀本和博)