「11月解散総選挙」での自民圧勝と安倍政権後の“危機”を予測するポスト

◆台風の目は「れいわ」

 参院選後の政局は早くも次期衆院選に移っている。週刊ポスト(8月16・23日号)は「11月解散総選挙」の記事を載せた。ここでも「“安倍自民単独3分の2”圧勝」すると自民党の勝利を予測している。

 しかし、ポストは「これでいいのか!?」と見出しに打った。つまり、自民党が憲法改正に必要な勢力を獲得するのを良しとしない、ということだ。とはいえ、見通しは否応なく「安倍自民」が勝ちそうだと出てくる。分析を聞いてみよう。

 まず、解散総選挙になる契機はやはり憲法改正だ。「憲法改正を進めることと国民投票法の改正はわが党の参院選公約」と言ってきた国民民主党を引き込み、憲法議論に反対する野党と分断、「国民に問う」として解散総選挙に踏み切るというもの。

 しかし「永田町の常識では増税後の総選挙はタブー」(政治評論家の有馬晴海氏)なのだが、今回は違うと有馬氏は言う。「参院選勝利で有権者は消費税率引き上げを容認」しており、「むしろ、総選挙が来年の東京五輪後になると景気減速と増税の影響をまともに受けて負けると不安視する声が大きい」から、その前にやってしまおうというのだ。

 加えて、「即位関連行事で国民の祝賀ムードの追い風」「消費増税に合わせたポイント還元」「年金生活者支援給付金」などをアピールできる。さらに安倍首相が桂太郎を抜いて最長の首相在任期間となる。

 いいことずくめのように書いているが、同誌は「台風の目」となるのが、先々週の本欄でも取り上げた「れいわ新選組の山本太郎代表」だと指摘する。次期衆院選には100人の独自候補を擁立すると宣言した。10人が当選すると予想されている。

 皮肉なことに、山本氏が脚光を浴びれば浴びるほど、他の野党がかすむ。特に主張が似ている立憲民主党は票を持っていかれる。野党同士で票の奪い合いとなり、自民党有利になっていき、「野党の共食いで“漁夫の利”を得る」というわけ。

 自民党勝利の見通しが立てば、これまで焦点となっている「憲法9条改正」に慎重な公明党が「要らなくなる」ことも。支持母体の婦人部を説き伏せることができないなら、こういう手もあるぞ、と凄(すご)みを利かせられるわけだ。

◆山積する課題に直面

 安倍自民党にとってはいいことずくめではないか。しかし、「これでいいのか」と言った建前上、ポストとしては“一矢報いて”おきたい。指摘したのは「宴の後の自民党は巨大な“抜け殻”だ」ということだ。

 「ポスト安倍で誰が総理になっても、次の政権は五輪後の景気後退、年金をはじめ社会保障の不安、高齢化の進展など安倍政権が手をつけなかった課題が深刻化」するという厄介な課題に直面せざるを得ない、というものだ。

 有馬氏は、「小選挙区制では支持が離れれば1回の選挙で政権がひっくり返る」と指摘し、「小泉政権後の自民党と同じ道を辿る危険が」あると警告する。

 当時、政権を途中で降りたのが安倍首相であり、続く選挙で自民党は大敗した。その苦い教訓を自民党が忘れているとでもいうのだろうか。

 次に解散総選挙がくるのは誰でも分かる。とりあえず、早々に予測記事を出して、もっともらしい理由を並べておく。週刊誌の手法である。ただ、ポストが指摘した、安倍政権後の自民党は有権者を引き付ける新しいインパクトのあるイシューを提示し、これまでのように「一強」でいられるかどうか、という観点は重要だ。

 自民党の中でも自覚された課題だと思うが、事態は既に新しいスタイルの政治が芽を出しており、“自民的な”政治や選挙が通用するかどうか、慎重な検討が必要になっている。「れいわ新選組」と「NHKから国民を守る党」の出現だ。

◆野党分断進む可能性

 サンデー毎日(8月18・25日号)では「倉重篤郎のニュース最前線」で「れいわショックの波紋」を載せ、続いて「ジャーナリスト鈴木哲夫」が「永田町を揺るがすN国党の『虚実』」を書いている。

 鈴木氏はN国が改憲に賛成する可能性があると自民党では見ており、野党の分断が進むと見通す。結局一定の票しか取れない野党の方が、れいわとN国の影響を受けるという話だ。野党がこの状況への体制が整わないうちに解散総選挙を打つ、まさに「兵は詭道(きどう)なり」だ。週刊誌の活躍の場でもある。

(岩崎 哲)