令和参院選 新潟、“落下傘”と“忖度”の激戦
「相手候補は、当選するためだけに新潟にやって来た人だ」
公示日の翌日、新潟市中心部のショッピングモールに安倍晋三首相の声が響いた。首相の隣で厳しい表情を浮かべるのは自民の現職、塚田一郎だ。党が重点区の一つに位置付ける新潟には、公示日の麻生太郎財務相をはじめとして、安倍首相、菅義偉官房長官ら党幹部が連日応援に駆け付ける。幹部らが自公政権の実績と同時に強調するのは、野党統一候補で新潟に地盤のない打越さく良との違い。青い幟(のぼり)には「新潟生まれ 新潟育ち」の文字が躍る。
塚田の父は新潟県知事も務めた塚田十一郎。13年の参院選(改選2)では、野党が共闘路線を取る前とはいえ、2位に25万票近く差をつけ、約45万票でトップ当選した。しかし、今回の選挙で塚田に吹く逆風は大きい。国土交通副大臣だった今年4月、「下関北九州道路」の整備計画をめぐる「忖度(そんたく)」発言で批判を浴び、辞任に追い込まれた。自民の支持基盤の一つである地元建設業界からの目も厳しく、兼任していた他の副大臣職や新潟県連会長も退き、頭を丸めて謝罪行脚に追われた。
新潟はもともと保守が強い地域だが、田中角栄の娘・真紀子が2009年に民主党に入党。野党に勢いが付いた。参院選では13年まで3回、自民と民主が2議席を分け合ってきたが、改選1になった16年の選挙では野党統一候補が約2200票の僅差で勝利。その後、2回の知事選でも与野党の勢力が拮抗し50万票前後で争う激戦が繰り広げられている。
新潟では拉致問題や柏崎刈羽原発など、地元特有の課題が争点に上る。自民党拉致問題対策本部の事務局長を務める塚田は、演説の中でも拉致問題の話題で語気を強める。聴衆からとりわけ大きな拍手が起こるのもこのテーマだ。党幹部だけでなくジャーナリストの櫻井よしこも応援に訪れ、「拉致解決」を前面に押し出した。
これに対し、野党統一候補の新人、打越さく良は「原発ゼロ」を強調する。打越は北海道出身の弁護士で、東京の法律事務所で児童虐待防止や女性差別問題などに取り組んできた。選対本部長を務める県選出の衆院議員、西村智奈美(立憲民主)の要請を受けて5月に出馬表明。いわゆる落下傘候補だが、忖度発言という「敵失」が追い風になっている。
6月には新潟弁護士会にも登録。演説では「正真正銘、新潟県民です」と声を張り上げアピールする。“落下傘”VS“忖度”の舌戦が繰り広げられるが、選対関係者は「小選挙区制になって落下傘候補も多くなっている。出身地云々(うんぬん)を攻撃するのは時代に合わない」と強気に構える。年金制度を懸念する中高年や、原発に不安を持つ有権者からの支持をさらに拡大したい。遠目から演説を聞いていた女性は「新潟に来たからには新潟に骨をうずめてほしい」と期待をにじませた。
このほか、政治団体「NHKから国民を守る党」の新人、小島糾史は公示日に新潟駅前で演説。動画投稿サイトを通じてNHK受信料の問題に絞って政策を訴えている。
(敬称略)