日露条約交渉、北方領土でゼロ回答は論外だ
日露平和条約締結に向けた安倍晋三首相とプーチン大統領との首脳会談を前に行われた日露外相会談で、ラブロフ外相は北方領土の主権問題は議論せず「北方領土」の呼称も受け入れないと主張した。戦後に区切りを付ける平和条約交渉で、旧ソ連の北方四島不法占拠を棚上げにしようとするロシアの姿勢は論外である。
安倍首相発言に抗議
昨年11月の日露首脳会談で「1956年の日ソ共同宣言を基礎に条約交渉を加速させることで一致した」として安倍首相は、日露平和条約交渉を外交の最優先事項に位置付けている。首相はプーチン氏を地元の山口県に招待するなど、会談を重ねて個人的親交も深めてきた。
日露間の最大の懸案は北方領土問題だ。56年共同宣言では平和条約締結後の歯舞、色丹の2島引き渡しに同意している。しかし、近ごろのロシア当局者からの発言は北方領土問題の存在そのものを無視しようとするもので遺憾と言わざるを得ない。
河野太郎外相との会談でラブロフ氏が示した「第2次世界大戦の結果」として北方領土をロシア領とする認識は、冷戦時代の旧ソ連と変わらない。ソ連は極東軍を千島列島および北方領土に派遣し、また住宅を建設して入植を進めることで、日本の国民が北方領土返還を諦めるように対日工作を行ったことを、当時のスパイ組織・国家保安委員会(KGB)の元情報員が、79年に亡命先の米国で証言している。
日ソの平和条約交渉は不毛だったが、今回の条約交渉は双方が経済協力など高い潜在性を認め合いながらも、北方領土に関してはソ連時代の56年共同宣言より後退する恐れもある。
首相が年頭記者会見の中で北方領土に住むロシア人住民について「帰属が変わることを納得、理解してもらうことも必要だ」と述べたことに、モルグロフ外務次官は抗議した。「主権は議題にならない」とするラブロフ氏の発言は北方領土返還にゼロ回答をするに等しい。
北方領土を事実上管轄する極東サハリン州では、昨年末にプーチン氏が任命したリマレンコ知事代行が、地元紙に「住民は領土の変更に断固反対している」と述べ、ロシア外交当局をバックアップしている。
もとよりロシア側の「第2次世界大戦の結果」という主張は暴力による領土拡張を正当化する乱暴な理屈であり、戦勝国側の連合国が合意した領土不拡大の原則に逆行する。択捉、国後、歯舞、色丹の北方領土は1855年の日露和親条約で日本領と認められた固有の領土だ。
同大戦末に日ソ中立条約を破って対日参戦したソ連は、日本がポツダム宣言を受諾し終戦となった1945年8月15日以降も侵攻をやめず、連合国への降伏文書を調印した9月2日以後の同3日まで攻撃を続けて北方領土を不法占拠した。
平行線覚悟で粘り強く
この国際法無視の領土拡張を清算しなければ、ロシアとの関係改善は弊害となる。
首相は政権の“レガシー”にこだわらず、平行線を覚悟してでも粘り強い交渉を継続していくべきだ。