勤労統計不正、ルールの無視は言語道断
厚生労働省が毎月勤労統計調査を誤った手法で実施していたことが分かった。雇用保険や労災保険などで総額約567・5億円の支払い不足が発生し、対象者は延べ2000万人に上るという。
失業給付などで過小給付
毎月勤労統計調査は、厚労省が毎月、雇用や賃金、労働時間の変動を把握するために行っているものだ。調査結果は失業手当の支給額算定のほか、国内総生産(GDP)の算出にも用いられる。
この統計では従業員500人以上の事業所は全数調査だが、東京都では2004年からルールを無視して約3分の1を抽出して行っていた。
厚労省の調査では、1996年からは調査対象の事業所数が本来より1割程度少ない約3万カ所だったことも判明。昨年6月には神奈川、愛知、大阪の各府県に、抽出調査を行うと連絡していたことも分かった。3府県への連絡は問題発覚後の12月下旬に撤回した。
誤った手法によって、統計結果のうち2004~17年の給与額が平均で0・6%低下。このため、失業給付などで過少給付になっていた。
厚労省職員の間では「500人以上の事業所が東京に集中しているので、全数調査にしなくても精度が確保できる」との誤った認識が引き継がれていたとみられている。
その結果、十数年にわたって支払い不足が生じたことは言語道断だ。国民生活に直結する問題であり、データの重要性への理解が不足していたと言わざるを得ない。
安倍晋三首相は「統計の信頼が失われる事態が生じたことは誠に遺憾であり、大変重く受け止めている」と述べた。政府は来年度予算案を修正して不足額を追加で支払う方針だ。
一度閣議決定した予算案の修正は極めて異例なことだが、早急に被害救済を行わなければならない。
毎月勤労統計は、総務省の国勢統計や厚労省の人口動態統計など全部で56種類ある国の「基幹統計」の一つだ。今回の問題を受け、菅義偉官房長官が全ての基幹統計について統計データを点検するよう指示したのは当然だろう。
厚労省では昨年も裁量労働制に関する不適切データが発覚。政府は働き方改革関連法から裁量労働制の対象拡大部分の削除を強いられた。
現在は急速な人口減少と超高齢化社会の到来に対応した持続可能な社会保障制度の構築が求められている。こうした中、その中心となる厚労省で不祥事が相次ぐようでは、どのような制度改革を実施しても国民の将来への不安を払拭(ふっしょく)することはできないだろう。
全容解明し再発防止を
今回の問題では、抽出調査を行っていた東京都分で、18年から企業数を本来と同等にする補正処理を実施していたことも明らかになっている。これについては、誤った手法を隠蔽(いんぺい)するためではなかったかとの見方も出ている。
厚労省は全容解明を進め、再発防止を徹底して信頼回復に努めるべきだ。