北方領土交渉、4島返還への糸口見いだせ
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われた安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との首脳会談で、北方領土問題を含む平和条約締結交渉の責任者を河野太郎、ラブロフ両外相とすることが決まった。交渉で4島返還への糸口を見いだすことが求められる。
協議の枠組みが整う
両外相は年明けの首相訪露の前に会談を行い、調整を加速させる。両外相の下の交渉担当者には森健良外務審議官、モルグロフ外務次官を起用。それぞれ首相特別代表、大統領特別代表に任命した。
11月のシンガポールでの前回会談で、両首脳は1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。今回の決定で協議の枠組みが整ったことになる。
日ソ共同宣言は、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本側に引き渡すと明記している。
安倍首相は2島返還の実現と残る2島での共同経済活動を組み合わせた「2島プラスアルファ」での決着を探っているとの見方も出ている。しかし、国後、択捉両島も日本固有の領土であることを忘れてはならない。
旧ソ連は第2次世界大戦末期の1945年8月9日、当時まだ有効だった日ソ中立条約を無視して対日参戦し、北方領土を不法占拠し続けている。日本は何としても4島返還を実現する必要がある。
ただ、それが簡単ではないことも確かだ。プーチン氏は北方領土をめぐって、これまで「ロシアの主権は第2次世界大戦の結果であり、国際法によって確定された」と正当性を強調してきた。2島を引き渡す場合でも、主権を手放さない考えを示唆して日本側を揺さぶっている。ラブロフ氏も北方領土問題の強硬派として知られる。
ロシアは北方領土を極東の軍事的要衝と位置付け、国後・択捉両島に地対艦ミサイルを配備するなど軍事拠点化を進めている。また、プーチン氏は年金改革で支持率が急落し、領土問題で国民の反発を招くような譲歩をする可能性は低い。領土交渉には大きな困難が伴うだろう。
一方でロシアは、14年3月に併合したウクライナ南部クリミア半島周辺海域でウクライナ艦船を拿捕(だほ)した事件で国際社会から批判を浴びている。トランプ米大統領はブエノスアイレスで行う予定だったプーチン氏との首脳会談を中止し、安倍首相もプーチン氏に懸念を表明して乗組員の早期釈放を求めた。
この事件で、ロシアはウクライナ艦船による「領海侵犯」があったと主張している。だがロシアによるクリミア併合は国際法違反であり、こうした主張を認めることはできない。
ロシアに不法占拠されているのは北方領土だけではないということだ。プーチン氏はクリミア併合によって国民の愛国心をあおって求心力を高めた。
原則を曲げてはならない
領土交渉を何とか前進させたいという安倍首相の気持ちは理解できる。しかし「2島プラスアルファ」を掲げたとしても、2島が返ってくるという保証はない。
4島返還の原則を曲げるべきではない。