特別座談会:次世代の憲法議論
今年3月に自民党が改憲4項目で条文素案を発表し、憲法改正に向けて大きく動きだしている。こうした状況で若者の改憲論は盛り上がっているのか。20代の3人に「次世代の憲法観」を語ってもらった。
改憲で日本の信念示せ ―小村
平和のため議論進めよ ―中野
分かりにくい前文の文言 ―新田
憲法について、中学や高校でどのような教育を受けてきましたか。憲法を詳しく考えるような授業はありましたか。
小村 中学で習ったことでは、やはり「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の三原則が印象に残っています。あとは三権分立ですね。
新田 私は中学校の公民の授業で習いましたが、9条をテストに出すから全部丸暗記しろと言われたことをよく覚えています。
なぜ9条だけ暗記させられたのですか。
新田 先生からは、第2次世界大戦が起こった原因は日本にあって、この憲法ができたから現在は平和が保たれていると教えられました。その時は、そのまま先生の言葉を信じて9条だけはしっかりと覚えました。
中野 私も同じで、中学生の時に憲法9条と前文を暗記するよう言われました。
それは、新田さんと同じように「平和憲法」だからという理由で暗記するよう言われたのでしょうか。
中野 そうですね。戦後から現在まで、そして、これからも変わらない理想的な憲法だと教えられました。
大学では、憲法について深く考えている人はいましたか。
小村 今の若者には、憲法を改正した方がいいという意見も多くありますが、そこまで熱心に改憲を訴える人はいません。国の大きな枠組みを変えても、あまり生活に影響がないという感覚なのかもしれません。
ただ、自分はそう思っていません。学校教育では、憲法は国や政府を縛るためのものだと教えていますが、それはシステム上の話だと思います。私は、憲法は国の思想・信条そのものを表すものだと考えています。憲法を変えることは、日本がどうあるべきかという信念を示すことと言えます。だから、今の時代に日本はどうすべきかを憲法で改めて打ち出す必要があると思います。
中野 私が憲法について深く考えるようになったのは、大学2年生の時です。ある法学教授は憲法改正に賛成の立場でしたが、政治学の教授は強く反対していたからです。なぜ人によってこんなに違う思想になるのかと考えさせられました。教授が学生に対して、「安倍政権はダメだ」「皆は戦争に行きたくないでしょ」と言って同意を求めていましたが、平和を保つためにはどうすべきかという議論が欠落していました。
友人の中には「憲法は大事なものだから改正してはいけない」とか、「徴兵制は嫌だから変えないでほしい」と決め付ける人もいましたが、それは残念な考えです。平和のために何をすべきかという議論を進めていく必要があると思います。
新田 自分が憲法に興味を持ち始めたのは、安全保障関連法や憲法改正に反対していた学生団体「SEALDs(シールズ)」が注目を集めていたからです。その時に憲法を詳しく勉強したら、まず憲法の文章、特に前文が今の若者にとって分かりにくい言葉だと気付きました。いろいろな解釈ができ、なぜこのままにしているのだろうと思いました。誰が読んでも誤解が生まれない形にできたらいいのではないでしょうか。良い部分は残しつつも、70年以上変わらなかったが故に国際情勢との兼ね合いで不都合が生じているとしたら、今の時代に合った憲法を作る必要があるというのが率直な意見です。
若者こそ真剣な議論を ―中野
自衛隊明記に若者賛成 ―小村
メディアの影響少ない世代 ―新田
憲法改正はどういう手続きを経て行われるのか、周りの友人たちは知っていますか。
小村 国民投票があるとは知っていますが、どのような手続きがあって発議されるのか細かい部分は興味を持っている人でないと、あまり知らないかもしれません。
自衛隊を嫌ったり、アレルギーがあるという人は。
中野 自衛隊に対するイメージはいいと思います。
新田 熊本地震の時に自衛隊の活躍がツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で広まったので、自然災害発生時には自衛隊が必要だと感じている若者は多いと思います。
小村 自衛隊に対する悪いイメージは同じ世代から聞かないですね。憲法改正についても、9条2項は分からないという人は多いけど、自衛隊の明記だったら若者たちは賛成に回ると思います。
若い女性は憲法改正について、どのような考えを持っているのでしょうか。
中野 私の大学では、キャンパスを一歩出ると憲法改正反対を訴えている人を多く見掛けますが、年配の女性がほとんどです。若い女性の中では、それほど強い反対はありません。
新田 今の若者は新聞をあまり読まないし、テレビも見なくなっています。SNSの情報を通して世の中の出来事を考えるので、年配の人たちよりメディア報道に左右されることは多くありません。
小村 私が高校生の頃は、「インターネットって信用できないよね」という感じでしたが、徐々にネットのほうが信用できるという雰囲気になってきました。ニュースサイトを見ても、メディア報道と書き込まれたコメントは、全く反応や視点が違います。
新田 スマートフォンが普及してから、そういう風潮になってきましたね。
小村さんはユナイト代表として改憲を訴えていますが、活動を始めたきっかけは。
小村 2015年にSEALDs(シールズ)が安保法制反対の立場で活動していたのを見て、日本のために今できることは何だろうと考えたとき、賛成している若者もいると示したいと思ったことが始まりです。何か行動を起こそうと考えたとき、街頭演説ならできると思って始めました。
多くの学生は憲法に対して明確な意見を持っていないと思います。若者がもっと憲法に向き合う必要があると感じますか。
小村 そうですね。若者が広く憲法について話し合える雰囲気ができればと感じます。
中野 若者の間で憲法議論を深めていくことが重要だと思います。憲法は国のあるべき姿を示すものなので、これからの日本を担っていく若者こそ憲法をどうするのか考える必要があります。自分の考えをしっかりと持った若者が増えたら、憲法改正にもつながるのではないでしょうか。
若者の間で憲法議論を深めていくために、どうすればいいと思いますか。
小村 ユナイトとしては、演説や大会を行って、「憲法について真剣に考え、自分の意見を発信する若者がいる」ことをアピールし、議論を促していく予定です。
また、国会議員や有識者と学生が交流できるようなフォーラムを開催し、学生の意識を引き上げたいとも考えています。両者が交流すれば、憲法改正に向かう意識が一層発揚できるので、そういう場をどんどん設けていきたいです。
【参考資料】