改憲先延しは政治の怠慢

衆院選大勝 安倍政権への提言

元拓殖大学教授 吉原恒雄

 第4次安倍晋三内閣が来月1日に発足するが、最大の課題は憲法改訂である。景気回復、財政再建等も国政上重要課題だが、憲法改訂は安倍首相でなければ期待できないからだ。

吉原恒雄

 二階俊博自民党幹事長は、改憲について「あわてる必要はない」と発言している。しかし、自民党が敗戦後の米軍等の占領下で策定された現行憲法を改訂することを最大の政策課題として結党して以来、既に62年を経過している。また、政府の憲法調査会が報告書をまとめて以来、半世紀を遙(はる)かに超えている。ここで改憲課題は既に煮詰まっている。

さらに、衆参両院に憲法審査会を設置してからでも10年が経過している。各種の世論調査結果も国民の過半が改憲に賛同している。今回の衆院選でも、与党の自民・公明両党が重点政策として改憲を明示し、国民の大幅な支持を得ている。こうした状況下で改憲を先延ばししていることは、政治家の怠慢と言わねばならない。

 現行憲法を「平和憲法」と称して賞賛する向きがいる。哲学者カントは『永久平和論』の中で、永久平和実現のための禁止事項として「他の国家の憲法に暴力をもって干渉してはならない」と強調している。これに反して制定されたのが現行憲法である。

 比較憲法学の大家レーヴェンシュタイン教授も、「SCAP(連合軍最高司令官―元帥マッカーサー)に指示され、指導され、強制され、民主的に議会が混声合唱のようにして採択した憲法」と説明している。反米主義者が多い“護憲論者”が、このような来歴を有する現行憲法を擁護するのは矛盾しているように思える。

 共産党は「護憲」でなく、「憲法の平和的、民主的条項の擁護」が公式の主張である。平和的、民主的条項を遵守(じゅんしゅ)し続ければ、国政が乱れ、国際的にも窮地に陥る。その時こそ、政権の奪取の機会が訪れるとの読みがある。他の左翼勢力も大同小異の考えだ。

 首相は妥協すれば改憲反対論も静まるように誤解しているようだ。しかし、護憲勢力は首相の妥協を弱腰と判断し、反対運動を強化するだけである。理屈に合わない妥協は、護憲論者の反対を強めることになる。国際常識に反する防衛を巡る従来の奇妙な憲法解釈も妥協の所産だが、9条を残し自衛隊を明記するという先の安倍提案は、その典型である。それが国民の改憲への疑問を生じさせることを自覚しておくべきである。

政治家への評価は在任中ではなく、退任後あるいは死後に定まる。母方の祖父岸信介元首相、レーガン米元大統領の場合がその典型である。