消える民進党にこそ総選挙戦略を問うてほしかったNHK「日曜討論」

◆希望は野党第1党か

 10日公示の衆院選に向け役者も出そろった。しかし、民進党が存在しながら審判を受けないのは腑(ふ)に落ちない。9月1日代表選で、共産党との共闘を見直すと表明して選出された前原誠司代表は、同党の原点だった「反自民非共産」に軌道修正して二大政党を目指すかと思われたが、これを諦めて自分の党で公認候補を出さず、小池百合子東京都知事の新党・希望の党からの公認を得る方針を取った。

 昔の野球漫画になぞらえば、リリーフの前原投手が放った球は、軌道修正する直球でも共産票に寄ったカーブでもなく“消える魔球”だ。衆院解散後の1日、テレビ報道番組を視た違和感は、各党討論から民進党が消えたことである。

 NHK「日曜討論」は早速、「衆議院解散/各党の選挙戦略を問う」と題して各党幹部をスタジオに呼んだが、司会の島田敏夫氏は、「これまでの野党第1党が選挙戦から撤退して、東京都知事が代表を務める新党が焦点に躍り出るという異例の展開です」とアナウンス。自民党の塩谷立選挙対策委員長の次にマイクを向けられるのは、結党ほやほやの希望の党の若狭勝前衆院議員で、旗揚げした先月25日に衆院議員は11人だった小党がいきなり野党第1党席だ。

 が、「各党の選挙戦略を問う」なら、前代未聞の戦略に出て雲隠れした民進党にこそ問いたい。民進と希望の両党は政党も党綱領も全く別で、しかも若狭氏の肩書きは「前衆院議員」と、党の役職も不明。選挙では自民党公認候補(2014年衆院選、16年衆院補選)としてしか票を得ていない。いわば、つい昨日まで自民党の人が野党側筆頭席というのは妙な気がする。

◆棄権者は眼中になし

 ちなみに、他の出席者は公明党の高木陽介幹事長代理、共産党の穀田恵二選挙対策委員長、日本維新の会の馬場伸幸幹事長、社民党の又市征治幹事長、日本のこころの中野正志代表。議論は選挙戦の勝負に先走った舌戦になり、棄権した民進党に対してはほとんど発言がなかった。

 ただ、これに触れたのは、改憲保守政党の日本のこころの中野代表が、「あえて批判したいのは民進党です。2年前、安保法制の時に憲法違反だと言ってあそこまで反対した。まして憲法改正問題について党内でまとまらない。今回、希望の党を希望される人たちが憲法改正賛成だなんて、とても思えない」と苦言を呈し、護憲で安保法制反対の社民党の又市幹事長からは、「民進党の動きは本当にあ然とする」と呆れた程度だ。

 さりとて、この衆院選で民進党を忘れ去ってよいのか。15年参院選では敗れたとはいえ、比例代表で1175万票を得て、得票率は20%強だ。視聴した支持者も少なくなかったはずである。

 フジ「新報道2001」も各党討論を催したが、出席者は自民党の萩生田光一幹事長代行、公明党の高木氏、希望の党の若狭氏、共産党の田村智子副委員長、日本維新の会の馬場氏で、やはり民進党からの出席はなかった。

 しかし民進党は、今回の衆院選に対する決定の理由を党を代表した人物が公開討論などの場に出て説明しなければならない。さもなくば逃げたと思われ“希望”がなくなる。

◆共産党流のサンモニ

 TBS「サンデーモーニング」は、安倍晋三首相の解散、小池知事の希望の党立ち上げ、希望の党への民進党の合流とも批判的だ。出演した寺島実郎氏は「最も重要なポイントは国民がドロドロ混乱の中で見えてこない。例えば市民運動だとか、NPO、NGOだとか、まあ労働組合もそうですけど」とコメント。この番組での「国民」を象徴した言い回しだった。

 そこで「大混乱」と題した「風をよむ」のコーナーでは、街角の国民の声も、首相の解散や、改憲・安保法制を公認の条件にする希望の党を批判した高齢者ばかり。

 識者の声では、上智大学の中野晃一氏が、希望の党代表の小池知事の会見発言を引用し、「しがらみのない政治というと独裁ということになる。日本をリセットするというのも怖い話…」と根拠もなく語ったが、中野氏は共産党機関紙にも新春対談(2016年)はじめ頻繁に「しんぶん赤旗」に登場するだけに、共産党の悪宣伝をTBSが代理しているようにみえる。

 同日の放送後、民進党の民共共闘派は立憲民主党を結党したが、同番組は選挙中、共産党と立憲民主党の応援団と化しそうだ。

(窪田伸雄)