日中首脳会談、信頼関係構築への道は遠い


 安倍晋三首相はドイツ・ハンブルクで中国の習近平国家主席と会談した。

 両首脳は、関係改善に向けて首脳間の対話を強化することで一致した。だが、沖縄県・尖閣諸島周辺では中国公船が領海侵入を繰り返すなど懸案が山積している。信頼関係構築への道は遠いと言わざるを得ない。

 対北圧力に消極的な習氏

 首相は会談の冒頭で「上野動物園で生まれたパンダも元気に育っている。来年の日中平和友好条約40周年、さらにその先を見据えて関係改善の勢いを大きく育てていきたい」と述べた。さらに「首脳間の頻繁な意思疎通が両国の国民感情の改善に寄与する。日中韓首脳会談を早期に開催し、首脳の相互訪問実現も念頭に道を切り開きたい」と表明するなど協調ムードの醸成に努めた。

 首相が習氏に対話強化を働き掛けたのは、北朝鮮による核・ミサイル開発の阻止に向けて中国の協力を引き出すためだ。首相は北朝鮮に影響力を持つ中国が建設的な役割を果たすよう求め、両首脳は韓半島非核化が日中共通の目標であることを確認した。

 ただし、習氏は日米韓による北朝鮮への独自制裁については反対の立場を示すなど圧力強化には依然として消極的な姿勢を示している。北朝鮮の体制崩壊によって米軍と直接対峙(たいじ)するようになることを恐れているからだろう。

 しかし、中国は国連安全保障理事会の常任理事国だ。安保理決議に違反して核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に影響力を行使し、核・ミサイル開発を断念させる必要がある。それができないのであれば常任理事国の資格はあるまい。

 そもそも日中両国が、北朝鮮問題に共同で対処できるのか疑問だ。中国は尖閣の領有権を一方的に主張し、尖閣周辺では中国公船の領海侵入が繰り返されている。東シナ海の日中中間線付近では、両国が2008年にガス田の共同開発で合意したにもかかわらず、中国の単独開発が進行している。

 こうした問題は全て中国に非がある。状況改善を要請した首相に対し、習氏は「東シナ海の平和と安定を維持していく」と述べたが、行動で示すことが求められる。

 東シナ海にとどまらない。今月初めには、津軽海峡を航行していた中国艦1隻が日本領海に侵入した。こんなことをされては、関係改善などできない。

 一方、首相は中国が進めるシルクロード経済圏構想「一帯一路」について「国際社会共通の考え方を取り入れ、地域の平和と繁栄への貢献を期待している」と語った。だが「一帯一路」をめぐっては中国の覇権主義への懸念が強い。

 覇権拡大に手を貸すな

 日本と米国は、この構想を資金面で支えるアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも加盟していない。こちらも公正なガバナンス(組織運営)が確保されるか不安視されているためだ。首相は条件付きの参加の可能性に言及しているが、関係改善を焦るあまり、中国の覇権拡大に手を貸すようなことがあってはなるまい。