「骨太の方針」新目標に「財政健全化から逃げるな」と批判の日経・産経

◆現実的で妥当な目標

 政府が閣議決定した「骨太の方針」の財政健全化の「新目標」に、日経、産経の2紙が13日までに社説で批判や懸念を示している。

 骨太の方針は、来年度の予算編成などに向けた経済財政運営の基本方針となるもので、問題の「新目標」とは国内総生産(GDP)に対する国・地方の債務残高の比率のことである。

 骨太の方針は2020年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を黒字化するという、これまでの財政健全化目標に加えて、今回新たに、先の新目標を安定的に減らすということを掲げた。

 2紙の批判、懸念は「新目標が財政健全化の先送りにつながるようなことがあってはならない」(日経)、「PB黒字化で借金依存からの脱却を図る作業が失速しないかだ」(産経)で、社説の見出しは「安倍政権は財政健全化から逃げるな」(日経11日付)、「規律を緩める理由あるか」(産経13日付)と批判的なものとなっている。

 2紙がそう見るのは、次のような理由からである。債務残高対GDP比は、「残高自体が減らなくても経済規模が拡大すれば『改善』を期待できる」(産経)からだ(分母のGDPが経済成長によって大きくなれば、残高が同じでも比率は小さくなる)。

 それで、産経は「PB黒字化が難しいので、債務残高に目を向ける。そうした安易な発想があるなら問題だ」とし、日経も「短期的な歳出拡大や増税先送りの方便として目標を変更するなら大問題だ」と批判するわけである。

 2紙が言うのは、多分その通りで、政府にそうした意図が全くないということはないであろう。ただ、それは「逃げ」というより、より現実的で妥当な目標を掲げたとみるべきである。

◆経験から認識すべき

 これまでの財政健全化目標は例えば、前述の20年度のPB黒字化である。この目標は最新の試算で消費税率を10%に引き上げても、20年度は8・3兆円の赤字になり、達成が危ぶまれている。

 これを内外経済の状況に関係なく、杓子(しゃくし)定規に目標を達成しようとすればどうなるか。赤字の削減幅が大きいだけ、経済を痛める度合いも大きくなり、税収にも少なからず響いてくる。

 大事なのは、骨太の方針が掲げた通り、経済の規模を成長で大きくしながら、安定的に財政健全化の方向に進むということである。

 この20年度PB黒字化という目標の前提になっている19年10月予定の消費税率10%への引き上げも、現在の成長率1%という経済状況を考慮すれば、再考の余地が十分ある、より端的に言えば、とても実施できる状況ではないであろう。

 産経は、新目標について、「PB黒字化を形骸化させるとの批判や、消費税10%の再々延期への布石といった観測も出ている」として、それは「PBにこだわるために景気が悪化すれば、かえって財政再建が遠のく、という認識からだろう」と指摘。そして、「しかし、歳出拡大で成長を図ろうとしても、期待通りになるとは限らない。そのとき、財政はさらに悪化することになる」と批判した。

 だが、この批判は20年度PB黒字化へのこだわりや消費税増税の場合も、「期待通りになるとは限らない」。それどころか、想定以上に悪い状況を招いたことを、過去の経験から強く認識すべきであろう。1997年度と2014年度の消費税増税である。

◆消費増税の反省なし

 小欄でもたびたび指摘してきたが、年々増加する社会保障費の安定財源を確保するためとして実施された消費税増税は経済を痛め、特に歳出削減とともにデフレ効果の大きかった97年度のそれは、結果として、その後のマイナス成長や低成長をもたらし、法人税や所得税の減収を招き税収全体としても落ち込ませて、その後の赤字国債の大量発行につながった。

 意図した財政健全化とは逆の大幅な悪化を招いたのである。記憶に新しい14年度の消費税増税でも、予想外に悪影響が長引き、現在の低成長につながっている。

 産経の「PB黒字化が難しいなら、追加的な歳出・歳入改革を講じるべきだ」とは尤(もっと)もな指摘だが、低成長をもたらす主因となった消費税増税について、両紙に未だに反省の弁はない。

(床井明男)