首脳会談を前に政府の「対米協力案」に同様な批判展開する朝日、産経
◆「増長させる」と懸念
朝日と産経が、10日の日米首脳会談を前に政府が検討している「対米協力案」に対して、似たような批判を4日付社説で展開している。
「対米協力案」とは、朝日や産経によると、「両国が協力してさまざまなプロジェクトに取り組み、絆を強める。米国で4500万ドル(約51兆円)の市場と70万人の雇用を生む」(朝日)というもの。トランプ大統領が自動車貿易だけでなく、為替政策でも「何年も円安誘導を続けている」と批判し始めたことを受けての対応である。
産経は、「経済の緊密化は、日米同盟を深化させる上での基礎となる。その議論に向けた準備作業は必要」と理解を示しながらも、「相手の不満を解消し、批判をかわしたいとの思いが先に立っていないか」と疑問を呈す。
そもそも、2国間の通商交渉入りで合意したわけでもない。いきなり協力案を提示すれば、いかにも日本に非があり、一方的に歩み寄ろうとする印象を与える――というのが疑問の理由である。
産経は、首脳会談で安倍晋三首相がまず伝えるべきは、「トランプ氏が排外主義に突き進むというなら、深刻な懸念を抱かざるを得ないという、日本の立場である」と強調するが、正論である。
朝日の社説見出し「協力の前に原則を語れ」でいう「原則」も、ほぼ同様の意。国同士が深く結びついている経済の現状では、「米国だけが目先の利を得ようと保護主義的な政策をとっても、効果は長続きしない。持続的な成長には協調が不可欠だ」と説く。
朝日はこの「対米協力案」に、「何より、首相の訪米時に協力案を持参しようとする姿勢が、『米国第一』を掲げて圧力をかけてくるトランプ政権を増長させ、国際協調をますます難しくしないか」と、産経とは違った懸念を示す。
◆的外れな非難を批判
産経は「事実誤認に基づく対日観は正す。新たな関係の構築は、そこから始めるべきだ」とし、「問題はトランプ氏が耳を傾けるかどうかだ。その見極めがまだつかない段階で、相手の土俵に乗ろうというのだろうか」と強調、それが社説見出し「土俵に乗るのは早すぎる」になっている。
産経の言う「土俵」が、対米協力プランか、首脳会談そのものを指すのかは定かでないが、確かなのは、そうした正論や原則を語っても、「トランプ氏が耳を傾けるかどうか」という疑念である。「対米協力プラン」は首脳会談でのトランプ氏説得への、やむなき対応の一つということか。
産経、朝日の「対米協力プラン」批判は、日本政府への批判だが、批判されるべきはむしろ、経済問題で的外れな対日非難を繰り返すトランプ氏へだろう。
そうした点で、読売が4日付で自動車貿易について、日経と毎日がそれぞれ2日付、3日付で為替問題について批判の社説を載せている。
「日米自動車貿易/根拠なき批判には応じられぬ」との読売社説は、全くその通りで、米市場で販売する日本車の6割が米国生産であること、部品や販売などを含めた米国内の雇用規模は150万人に上っていることなどを挙げ、トランプ大統領の批判がいかに「的外れ」であるかを示す。
日本市場の「閉鎖性」も、関税は米国が日本からの輸入車に2・5%課すのに対し日本はゼロとむしろ逆の結果になり、欧州車並みに売れない米国勢の日本市場に合わせた戦略、努力の不足を指摘する。
◆正論より信頼構築か
「円安誘導」批判では、日本は過去5年間、為替市場へ介入をしておらず、「明らかな事実誤認」(日経)。同大統領が不快感を示す要因とみられる最近のドル高は、米国経済の改善が主因であり、それが米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げにつながり、投資先としての米国の魅力を高めドル需要を強める。さらに、「減税やインフラ投資など、新政権の財政刺激策が実現すればこうした動きは加速する」(日経)わけで、日経が「批判は筋違い」、毎日が「お門違い」と言うのも道理である。
ただ、やはり、ここでも出てくるのが、産経が指摘する「トランプ氏が耳を傾けるかどうか」という点である。
首脳会談では理路整然と正論を説き、誤りを正していくことも大事だが、まずは首脳同士の信頼関係の構築が何より重要ということなのか。日本の異例の好待遇と言われる首脳会談を注視したい。
(床井明男)