首相所信表明、気盛んなれど勇み足は禁物


 臨時国会が開幕し、安倍晋三首相が所信表明演説を行った。憲法改正に挑戦する意気込みや2020年以降を見据えた国造りなど「未来」への言及も数多く、「志定まれば、気盛んなり」(吉田松陰)の名言を想起させる内容だった。

 しかし、そうであれば、なおさら慎重さが求められる。党、国会の運営や対外政策での勇み足は禁物だ。

 懸念される日露交渉

 今国会は、安倍首相にとって政権を奪回して以来の国政選挙4連勝を受けスタートするものだ。衆参両院で改憲の国会発議に必要な3分の2の議席を「改憲勢力」が確保した歴史的な国会でもある。それだけに、首相のトーンは高く「この国会に求められていることは、目の前の課題から逃げることではない」とし、難題に対しても建設的な議論を行って「結果」を出す、との決意表明をした。そのこと自体は評価をする。

 改憲についても、国民に改憲案を提示するのは国会の責任だ、とし与野党で議論を深化させるよう求めたのは時宜にかなったことだと言える。野党側もこの呼び掛けに応じるべきだ。しかし民進党の野田佳彦幹事長が、自民党の改憲案の白紙化が改正条文・項目を選定する与野党協議の前提だと主張し、いきなり対決色を露(あら)わにしている。

 そういう万年野党的な態度は捨て、自党の考えを提案する建設的な姿勢に転換すべきだ。首相の言うように、「互いに知恵を出し合い、共に『未来』への橋を架けよう」との姿勢こそ、政権奪回を目指す国民政党に必要なはずである。

 環太平洋連携協定(TPP)承認案・関連法案への取り組みについても同様だ。TPPをアベノミクスの成長戦略の柱と位置付ける政府は、「アベノミクス加速国会」と位置付け、重要法案を絞り込んだ。衆院補欠選挙を10月下旬に控えているとはいえ、徹底抗戦ありきの姿勢は改めるべきだ。与党側も可能な限り情報を公開し円滑な審議を心掛けなければならない。

 「未来」が18回、「世界一」が8回も登場する首相の演説からは安定的な政治基盤の上に乗って指揮する余裕すら感じられる。18年9月までの党総裁任期の延長も現実味を帯びている。だが、こうした中でこそ党や国会の運営には謙虚さが求められる。傲慢(ごうまん)や独断専行を控えなければならないのだ。

 懸念されるのは、北方領土問題の解決に向けての首相の言動である。「領土問題を解決し、戦後71年を経ても平和条約がない異常な状態に終止符を打つ」との意気込みはよい。ただ、首相とロシアのプーチン大統領とのリーダーシップで交渉を前進させ「大きな可能性を開花させる」と語るが、前のめりになり過ぎていないか。

 首相の言う「新たなアプローチ」による領土問題解決案が、北方四島の帰属の明確化を抜きにするならば、断じて許されないことを肝に銘じるべきだ。

 代案提示して論戦を

 国会はきょうから各党の代表質問に移る。単なる非難合戦ではなく実りある国会を象徴するような代案を提示しての論戦を期待したい。