日中首脳会談、中国は大国の責任果たせ


 安倍晋三首相と中国の習近平国家主席との日中首脳会談が、昨年4月以来1年5カ月ぶりに中国・杭州で実現した。両首脳の会談は今回で3回目である。

 日中摩擦の火種となっている東シナ海での中国の一方的なガス田開発や沖縄県・尖閣諸島周辺海域での中国公船の領海侵入など諸懸案の解決への道筋を付けることができなかったことは遺憾だ。

 南シナ海問題で対日牽制

 尖閣周辺海域では、今年6月に中国海軍の艦艇が接続水域を初めて航行。先月上旬には、中国公船が5日間で計28回領海を侵犯するなど挑発活動を激化させた。尖閣は日本固有の領土であり、こうした行為は決して容認できない。安倍首相は「公船や軍による特異な活動は極めて遺憾だ」と伝え、状況を改善するよう求めた。

 一方、両首脳は東シナ海などでの日中の偶発的な衝突回避を重視して「海空連絡メカニズム」の早期運用開始に向けて協議を加速することで一致した。両国関係改善への一つのステップだと言えよう。

 海空連絡メカニズムは、中国公船の挑発的な行動などが日中の衝突に発展しないようにするために重要だ。具体的には、両国の防衛当局間にホットライン(緊急連絡のための直通電話)を開設し、日中の通信手段を共通化する。2014年11月の日中首脳会談で早期の運用開始を確認したが、協議は停滞していた。運用実現に向け、両首脳は指導力を発揮する必要がある。

 中国は東シナ海や南シナ海で強引な海洋進出を行って「力による現状変更」を続けている。しかし、国際社会は中国に厳しい目を向けている。オランダ・ハーグの仲裁裁判所は南シナ海での中国の権益主張を認めなかった。

 首相はこの判決を念頭に「国際法のルールを守り、周辺国の不安解消に努めてほしい」と要請。習主席は「日本は言動に気を付けるべきだ」と牽制(けんせい)し、日本は当事者でないとの従来の立場を繰り返した。

 だが、国際法を無視することは大国にふさわしい振る舞いとは言えまい。このままでは国際社会からの信頼を失い、長期的には中国の利益を損なうことになろう。

 会談の行われた日には、北朝鮮が弾道ミサイル3発を日本海に発射し、3発とも北海道・奥尻島西方の日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。地域の平和や安全を脅かすものであり、関係国が連携して対処しなければならない。

 首相が習主席に「責任ある国連安保理常任理事国としての中国の建設的な対応を期待する」と述べ、対北朝鮮制裁決議の厳格な履行を求めたのは当然だ。一方、習主席が韓国の朴槿恵大統領に、在韓米軍への地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備について反対の立場を伝えたことは首を傾げざるを得ない。これでは、安保理常任理事国の資格はないのではないか。

 多様なレベルで対話を

 中国には批判すべき点が多いが、日中関係の改善は地域の安定や発展につながる。多様なレベルでの対話継続が必要だ。