選挙モードの政党テレビ討論で争点にされる「アベノミクス」の成否
◆黒塗り印象操作続く
衆院補選が北海道5区・京都3区で告示され、政界は参院選に向け選挙モードになった。国会の駆け引きもメディア向け発言も選挙のうちだ。3月には民主党と維新の党が民進党を結党。慣れない党名にテレビの政治討論でも「民主党」と、つい口を衝(つ)く場面もままあるが、バラバラになった野党が一つ減り若干すっきり聞き得る。
環太平洋連携協定(TPP)の国会審議をめぐる政治討論だった10日のNHK「日曜討論」では、冒頭、民進党が「真っ黒黒すけ」と批判した交渉過程の黒塗り文書が取り上げられた。出席したのは、自民・小野寺五典政調会長代理、民進・山尾志桜里(しおり)政調会長、公明・上田勇政調会長代理、共産・小池晃政策委員長(現書記局長)、おおさか維新・浅田均政調会長、社民・吉川元(はじめ)政審会長。
「情報公開」を問題視した山尾氏、「どの条約も交渉過程は外に出さない」と説く小野寺氏との主張の対立に、上田氏は「黒塗り資料を掲示したが、まったく公開していないと誤解される。今までも厚さ10㌢もある資料を公開している」と反論、浅田氏は「議論すべきは結果に対してどういう態度で臨むかが重要で、それを横に置いて経過を明らかにせよというのは本末転倒」と民進党の姿勢を批判した。
が、説明をしても黒塗り文書は視覚から印象操作できる。「こんな秘密主義の交渉はない」(小池氏)と、スタジオでも黒塗り文書をかざす挑発に、与党側は民進党が開示を求めた交渉過程について「どこが政権になっても同じもの(黒塗り文書)しか出ない」(小野寺氏)と釈明に追われた。
特に、補選が行われている農業王国・北海道ではTPPに抵抗が強く、与党に今国会の承認見送り論が高まった。選挙を抱えての政治討論は国会パフォーマンスと連動し、民進党の作戦に一杯食わされた形である。
◆「秘書が」に共産援護
民進党は背水の陣を敷いている。今まであり得なかった共産党との共闘に加え、新党に衣替えした。自公対民共の構図で展開したBS日テレ6日放送の「深層NEWS」の「今夜も与野党論客激論!国会場外戦」では、共産党が山尾志桜里民進党政調会長の資金疑惑に目をつむる姿勢が特徴的だった。
出席したのは、自民・平沢勝栄、公明・上田勇、民進・長妻昭、共産・穀田恵二の4党衆院議員。山尾氏の政治資金報告書にガソリンの見せ掛け購入が発覚した疑惑について同日開かれた山尾氏の記者会見のニュースの後に討論に入った。
山尾氏を擁護する長妻氏に、「秘書が」との記者会見で済ませるのは納得がいかないと監督責任を問う平沢氏とのやりとりに、共産党の穀田氏が割り込み「平沢さんから監督責任という話がありましたが、それは御党にも帰ってくる話で…」と、穏やかな口調で民進党に助け舟を出した。
もとは週刊新潮の「地球5周分」疑惑報道(その後、山尾氏会見を受けて「ガソリン代は地球9周分!」と続報)が発端だが、他党の「政治とカネ」に舌鋒鋭く批判して自らを「清潔な党」とする共産党のこれまでの情宣を踏まえると、やはり不自然である。
しかも共産党は、民主党が政権に就く勢いがあった数年前は、「財界が仕掛けた反共攻撃」と自民に二大政党として対峙(たいじ)した民主党に毒づいていた。手のひらを返したダブルスタンダードであり、逆に露骨な馴(な)れ合いを印象付けた。
◆「失敗」に解散迫らず
同番組の本題は「アベノミクスは失敗か」として、来年4月の消費税増税の有無に絡む衆参同日選の是非に議論は及んだが、今年に入っての株価下落、個人消費や設備投資が伸びずじり貧となるなど与党側に苦しい状況だ。
番組は、2014年11月解散の際に安倍晋三首相が「2017年4月の引き上げについては景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします」との発言を指摘。討論では来年4月に予定通り消費税率10%を導入できるかがアベノミクスの成否にされた。
長妻氏は、「(消費税増税を)先送りすると言ったらアベノミクスの経済状況が不本意な結果に終わったということだ。やはり総辞職していただかないと」と迫った。
筋が通っていそうで妙な話だ。野党の時の自公は口を開けば「早期解散」を迫った。消費増税先送りが「アベノミクス失敗」なら野党こそ信を問えと言うべきで、与党が言いだすのを恐れて「内閣総辞職」を願うのはナイーブすぎないか。ともあれ、参院選を衆参同日選にしようと期待する自民党内に、民進党が過敏になっていることは確かだ。
(窪田伸雄)





