文化庁に続き政府機関の地方移転進めよ
政府の「まち・ひと・しごと創生本部」はこのほど、文化庁を京都に移すなど政府機関の地方移転に関する基本方針を決定した。「東京一極集中」を打破し、地方創生に弾みをつけるには、より多くの政府機関の移転を進めていくべきだ。
観光庁などは見送り
基本方針には、文化庁を数年以内に「全面的に移転する」と明記された。また消費者庁の徳島県、総務省統計局の和歌山県への移転は、それぞれ可能かどうかを見極め8月末までに結論を出す。
しかし、提案が出ていた特許庁、中小企業庁、観光庁、気象庁の移転は見送られた。独立行政法人や研究機関では、東京国立近代美術館工芸館を数年のうちに石川県に移すなど23の機関を対象と明記している。
省庁や政府機能の移転が求められるのは、東京に集中する企業本社を地方に移転させる呼び水ないし模範を示すためである。誘致の希望を募ったところ、昨年9月までに合わせて69の機関について42の道府県から希望が寄せられていた。
「まち・ひと・しごと創生本部」の本部長である安倍晋三首相は「政府機関の地方移転は、地域に仕事と人の好循環を作り出すための重要な施策だ」と強調したが、文化庁だけでは模範を示したことにはならない。
文化庁について、京都府は、国宝の約5割、重要文化財の約4割が関西地方に集中していること、1000年以上にわたり日本の文化の中心であったこと、それを守ってきた歴史があることなどから、京都移転によって機能が向上できるとアピールしてきた。
基本方針も「文化財を活用した企画立案や国際発信力の向上、観光振興が期待できる」とし、「移転の効果は大きい」と結論付けた。政府内に「文化庁移転協議会(仮称)」を設け、年内をめどに具体的な計画を決める。
文化庁内にももちろん、「国会答弁に支障を来す」など抵抗する声はあった。だが、京都では政財界や文化人らが協議会を作り、文化庁の誘致実現に向け積極的に働き掛けを行ってきた。地元の熱意が政府を動かす形となった。
一方、大阪府が求めていた中小企業庁、北海道や兵庫県が希望していた観光庁などの四つの庁に関して言えば、東京でないと役割を果たしにくいであろうことは常識的にも理解できる。しかし、少しでも東京一極集中を打破するという国家的課題を考えれば、これらの庁に限らず、省庁の機能で一部移転できるものはないか、もう一度検討する必要がある。
この問題は、官僚たちの厳しい抵抗に遭うであろうことは当然予想された。だが、急速な少子高齢化、人口減の圧力によって地方が消滅の危機に瀕(ひん)している中、国の施策と行政を担う官僚が省庁の狭い利害を考えている場合ではない。
危機対応のためにも
また省庁移転は、地方創生だけでなく、首都直下型地震の発生などを想定した政府機能の地方分散という危機対応の側面もある。国家百年の計に立って、何ができるかをもう一度考えるべきである。