川内原発の差し止め申請棄却は妥当だ


 九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めを住民らが求めた仮処分申請の即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は差し止めを認めず即時抗告を棄却する決定を出した。「原発の新規制基準や原子力規制委員会の判断が不合理とは言えない」との見解は妥当なものだ。

事故後に割れる司法判断

 住民らが原発の差し止めを求めた仮処分では、大津地裁が先月、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の停止を命じて運転中の原発が司法判断で初めて止まった。この決定は新規制基準に疑問を呈したものだったが、今回は正反対の判断が示された。

 福岡高裁宮崎支部の西川知一郎裁判長は、新規制基準について「耐震安全性や重大事故対策に不合理な点はない」と判断。予想を超える地震が起きる可能性はあるが、「原発の安全性確保という観点からは高度の合理性がある」とした。

 川内原発の周辺には火山が多い。約1万年に1回程度とされる破局的噴火に関して、西川裁判長は「発生の可能性が相応の根拠を持って示されない限り、安全性に欠ける部分があるとは言えない」と述べ、規制委の判断に合理性を認めた。

 こうした見解は、最高裁が1992年の四国電力伊方原発訴訟判決で、原発の安全審査について示した「最新の科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との考え方に沿っている。妥当で良識的なものだと言えよう。

 だが東京電力福島第1原発事故以降、この判例の趣旨から逸脱した判断が目立つ。高浜3、4号機に関して、福井地裁は昨年4月に運転差し止めを命じる決定を出した。これは同12月に関電の異議が認められ、取り消されたが、先月には大津地裁が再び差し止めを決定するなど混乱が続いている。

 専門家でない裁判官が、新規制基準や規制委の審査結果の是非を判断することには限界があろう。それにもかかわらず、独自の見解を示すのであれば「司法の暴走」だと言われても仕方がない。法曹関係者からも「裁量権の範囲を超えている」との声が上がっている。

 規制委は、川内原発の審査申請から使用前検査終了まで約2年をかけている。公開の審査会合だけで約70回、九電が作成した資料は約40万㌻に及んだ。裁判所は最高裁の判例を踏襲し、抑制的な姿勢に徹するべきだ。

 今回の決定は、事故のリスクについて、社会がどの程度まで許容するかという「社会通念」をもとに判断。最新の科学的知見を超える絶対的安全性まで求めることは社会通念になっていないと指摘した。もちろん原発の安全性を絶えず向上させていくことは必要だが、非現実的な「ゼロリスク」を求めることがあってはなるまい。

規制委の判断尊重を

 福島の事故後、原発の運転差し止めを求める訴訟は約20件に上る。

 司法判断が割れれば、政府のエネルギー政策にも支障を来しかねない。裁判所は規制委の判断を尊重すべきだ。