憲法改正の賛否は選挙でなく国民投票で
通常国会では衆参の予算委員会審議で憲法改正について活発な質疑が交わされており、安倍晋三首相は参院予算委で首相在任中の改正実現を目指すと表明した。もとより憲法を改正するかどうかは国民投票で決めることであり、そのために国会は憲法審査会における責任ある審議で改正原案を示し、改憲発議を実現させてほしい。
政権批判広げたい民主
首相は野党議員らにも憲法審査会での「丁々発止の議論」を呼び掛けている。憲法改正に関しては、国会の果たすべき役割が大きい。
すでに国会では、衆参両院の憲法調査会が5年の調査期間をかけて日本国憲法の条文には見直すべき点があるという意見が多数を占めた報告書をまとめ、2005年4月に両院議長に提出している。与野党の全党派が参加し、良識を持って運営された調査会だった。
戦後60年の当時でさえ、もはや条文が現実と乖離(かいり)していることを多くの専門家らが認識していたのだ。憲法調査会の報告書提出を受け、「改憲」を掲げる自民党は立党50年の節目に合わせて「新憲法草案」をまとめた。民主党も「創憲」を表明して「憲法の還暦」に改憲案を示すと公言し、公明党は「加憲」を表明していた。自民党は野党時代の12年4月にも「日本国憲法改正草案」をまとめている。
しかし、民主党は04年6月に党憲法調査会の中間報告をまとめたものの、60回目の憲法記念日を過ぎ、さらに8年を経ても「創憲」案を示さず、公明党も「加憲」案を提示していないのは残念なことだ。与野党の立場の違いから自民党案への発言には温度差があるが、他党案への批判に終始するのではなく、自ら良いとする案を示すのが筋であろう。
今通常国会では、民主党は反安保法制の経緯から共産党と共闘関係を築く一方で首相に憲法改正について質問をしている。参院選を控えての争点化の意図が見え透いている。「国防軍」など自民党案の9条改正に関わる条項を取り上げていることを見ても、昨年の安保法制反対デモのスローガンのように戦争を連想させて政権批判を広げたいのであろう。
民主党の岡田克也代表は、首相答弁に関して「参院選までに何をどのように変えたいのか示すべき」と迫り、与党に3分の2の議席を取らせないとの理由を「安倍政権による改憲には反対」と、首相に責任転嫁している。また、公明党は参院選での改憲反対が野党の結集軸になることを懸念した。
選挙を念頭に憲法改正を争点化する弊害は、改正内容ではなく、賛成か反対かに議論が終始することだ。憲法改正への賛否は国民投票で国民が決めることであって、結果的に国会議員がその機会を70年近くも奪っていることに問題はないのか。
国際社会に通用する案を
日本では一度も国民が憲法を決めたことがない。憲法改正は与野党が選挙の争点にして政争の具にするものではない。国民を代表する国会議員が、時代に即して国や国民に何が必要かを見定め、国際社会に通用する条文案を追求すべきだ。