出生率向上、「家族支援策」を柱に据えよ


 出生率を1・4から1・8まで回復させる――。安倍晋三首相は経済成長のための新たな「3本の矢」に子育て支援拡充を据え、出生率の向上に取り組む。少子化克服は国家的課題だ。それには子育てだけでなく、家族支援策が欠かせない。

首相の「新3本の矢」

 人口を維持するために必要な合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)は2・1とされる。だが、現在は1・4程度に落ち込み、人口は毎年30万人近く減っていく。30年後に1億人を割り、国土の約6割が無人になるとの試算もある。

 それで安倍首相は少子化対策を「安倍政権の最重要課題」と位置付け、今年4月には内閣府に子ども・子育て本部も設けた。「新3本の矢」では待機児童ゼロを実現し、幼児教育の無償化も拡大して「子育てに優しい社会」を作り上げ、出生率を1・8まで回復させるとしている。もとより子育て環境の改善は重要だ。数値目標を示し、人口減の克服に取り組む姿勢は評価されてよい。

 だが、その中身が問われる。政府の少子化対策は1994年のエンゼルプラン以来、確たる成果を上げてこなかった。その理由は保育所作りなど「共働き」を前提とした子育て支援策に偏ってきたからだ。

 出産・育児に喜びを感じ、そのことに専念したいという女性は少なくない。3歳以下の子供のいる母親の約6割がそう願っているとの調査結果もある。だが、政府はそんな女性の願いを軽んじてきた。イデオロギー的な男女共同参画策にも傾斜し、専業主婦を敵視すらした。その延長線上の施策であれば成果は得られまい。

 そもそも少子化の大きな要因は、子育て以前の非婚、晩婚化にある。30歳代前半の男性は半数近く、女性は3割が未婚だ。これでは子供は生まれてこない。若い人が当たり前のように結婚し、子供を2人か3人産み育て、家族の絆の中で幸福な生涯を送る。そうした社会を目指して家族を支える。そうなれば出生率はおのずと上がる。

 少子化は「文明病」との見方もある。近代化とともに伝統的家族観が崩壊し、離婚や同棲などによる不安定な家庭が増え、個人主義の広がり、自己実現欲が重なって出生率が急速に下がったというのだ。欧米や日本だけでなく、韓国や台湾にも当てはまる現象だ。その意味で少子化克服は「文明の超克」にも通じる。

 ところが、「多様な価値」の名の下に伝統的な結婚や家族観を否定する主張がある。政府の少子化対策を「権力の介入」とする筋違いな批判もある。菅義偉官房長官が歌手の福山雅治さんと女優の吹石一恵さんの結婚について「(女性が)一緒に子供を産みたいという形で国家に貢献してくれれば」と述べたところ、戦前の出産奨励策を連想させるとの非難の声が一部から出されたのがその典型例だ。

「同性婚」容認は論外

 「同性婚」を結婚として認めよといった主張があるが、これも論外だ。少子化を克服できるのは男女の婚姻と出産に関わる「家族」だけである。家族を支援する施策こそ急務だ。

(10月5日付社説)