露のシリア空爆、情勢を一層悪化させる暴挙だ
ロシアがシリアで空爆を開始した。アサド政権の要請に基づくもので、過激派組織「イスラム国」(IS)に打撃を加えるのが名目だ。
だがISだけでなく、米中央情報局(CIA)の軍事訓練を受け、アサド政権と敵対している反体制派も攻撃された。情勢をさらに悪化させる暴挙として非難されるべきだ。
アサド政権支援のため
シリアでは2011年から内戦が続いているが、アサド政権は権力維持のため多数の自国民を虐殺した。このため、米政府は「アサド政権には正当性はない」として退陣を求め、シリア反体制派を支援している。
一方、ロシアは「米国などの反体制派への支援がシリア内戦を泥沼化させている」と主張してアサド政権を支援し続けている。プーチン大統領は「軍事支援には国連安全保障理事会の決議か当該国の要請が必要だが、シリアでは守っていない国々もある」と述べ、アサド政権の頭越しに昨年9月からシリア領内でISを標的に空爆している米国主導の有志連合を批判した。
今回のロシアの空爆には、シリア問題解決に向けて存在を誇示することでウクライナ危機による孤立を脱却する思惑もあろう。中東での影響力拡大も目的の一つだとみてよい。
シリアとイラクでのISの勢力拡大に伴い、アサド政権は弱体化している。ロシアがアサド政権を支援するのは、シリアにロシア海軍基地があるためだ。自国の国益にかなうのであれば、どれほど非道な政権でも支えていこうとする構えである。だが、これでは国際社会の理解を得られまい。オバマ米大統領は、内戦の終結やISの掃討戦に「逆効果だ」と非難した。
内戦は諸勢力が入り乱れて収拾のつかない状態だ。米欧は穏健な反体制派として「自由シリア軍」を支援している。だが「自由シリア軍」は統率力と求心力に欠け、諸勢力が各地でバラバラに戦っている状態だ。その間、国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」が台頭して「自由シリア軍」と提携した。
懸念されるのは、ISが反体制派を吸収して勢力を伸ばす恐れがあることだ。ロシアの空爆はISよりも反体制派の排除を重視しているようにも映る。ヌスラ戦線には、アフガニスタンやイラクで経験を積んだ外国人戦闘員が多い。ロシア軍の攻撃で行き場を失えば、やはり多数の外国人がいるISに合流する動きが強まるとみられる。
ISには2000人以上のロシア人が参加しているとされ、ISとロシア南部チェチェン共和国など北カフカス地方のイスラム武装勢力の連携も指摘されている。ロシアにとっても大きな脅威と言えよう。
だが、シリア内戦への単独介入は国際連携を乱し、ISの強化にもつながりかねない。有志連合の空爆は続いており、米露両国軍機の衝突など偶発事故が生じる恐れもある。
関係国は内戦終結実現を
シリア内戦の死者は24万人以上に上るとされ、欧州には多くの難民が押し寄せている。米露をはじめとする関係国は協力して一日も早い内戦終結を実現すべきだ。
(10月4日付社説)