安保法成立 法制整備は終わっていない
安全保障関連法が大混乱の末にやっと成立した。だが、安保法制の整備はこれで終わるわけではない。改正された法制も依然として多くの欠陥を持っており、その上国際社会には新たな波乱要因が次々と生まれているからだ。
55年体制下の答弁に固執
今国会での審議過程では、法制整備の必要な理由として政府当局者のみならず、賛意を表明した参考人等も、東アジア情勢の緊迫化を挙げていた。情勢変化を強調するのはよいが、留意すべきはわが国が独立国として不可欠な法制の整備を怠ってきた点だ。
今回の法制定によって若干は改められた。だが、わが国の安保法制は、未だに国内の治安維持のための法制がベースにされている。
国民の法案への理解度が低かったのは、55年体制下の国会答弁に野党だけでなく政府当局も固執した点にある。国会対策上の妥協の産物であり、矛盾に満ちた安保関連答弁を是正せずに、当面の対応に必要な限度で解釈を修正したので、誤解を与える結果になった。
その好例は集団的自衛権の政府解釈だ。国際社会での解釈と比べると「関係の深い国への攻撃であるがゆえに、それを自国に対する攻撃とみなす」との重要な点が欠落している。その上に「自国が直接攻撃されていないにもかかわらず」が挿入されている。これでは「米国の戦争に協力することになる」との謀略宣伝に悪用されるのは当たり前だ。
一方、国会論議で、国家の安全確保、国際平和確立への参加について、依然として警職法が準用されている。国家が国際社会で行動する際には、国際法を遵守(じゅんしゅ)する義務があるにもかかわらず、である。
秩序が大きく乱れた際に出動が必要となる国際社会と、治安が確立している国内との違いを再認識することが肝要だ。いわゆる「駆け付け警護」の問題など「国際法と多国籍軍の指揮の遵守」が必要なことを国民に理解させるべきだ。
今国会の安保法制審議で改めて浮き彫りになったのは、国家の安全確保政策を事細かく“法制化”することが妥当か否かの点である。
大規模な工場事故発生の一因は、事故対応のマニュアル化とされている。事故はマニュアル通りに起こらないため、対応できなくなっているのだ。
同様のことは、わが国が直面する安全保障上の事態についても言える。野党側がさまざまなケースを想定し、その対応を政府に質している。だが、国際社会では極めて複雑な要因が絡まり危機が発生するので、そのすべてを事前に想定して法で規定することは不可能に近い。現代の立憲主義は第2次世界大戦前から行政権の役割が非常に増大している。
対応戦術は政令以下で
危険ドラッグ業者は法の間隙(かんげき)を縫って暗躍している。日本を侵略しようと考える国も同様にして攻撃してくるであろう。
主要諸国と同じように、法では大筋を定め、あとの対応戦術は政令以下で定めるようにすべきだ。
(9月20日付け社説)