安保法成立 「戦後体制脱却」へ新たな一歩
編集局次長・政治部長 早川一郎
日本の安全保障政策の歴史的な転換点となる安保関連法が成立した。これまでの憲法解釈で認められなかった集団的自衛権の限定的な行使を可能とすることなどにより、戦争防止のための抑止力を向上させることの意義は大きい。
これはまた、「一国平和主義」をはびこらせてきた「戦後レジーム(体制)」からの脱却へ向けて新たな一歩を踏み出したことをも意味する。「ヤルタ・ポツダム体制」によって方向付けられた戦後の体制が、サンフランシスコ講和条約発効、日米安保条約改定などを経て戦後70年の節目に、積極的平和主義という理念の下、国際協調路線を本格化させることになろう。
日本を取り巻く安全保障環境は悪化している。中国の急激な軍拡と東・南シナ海での国際法無視の力ずくによる秩序破壊の動きや北朝鮮の核・ミサイル開発などに対処しなければならない。米国など日本と密接な関係にある国が第三国から武力攻撃を受け日本の存立や国民の自由などが脅かされる場合には、自衛隊が武力行使できるようになった。米国と相互に守り合いつつ警戒監視を強めることなどで日米同盟の強化と衝突回避のための抑止力が発揮されることになる。
同時に、自衛隊の海外派遣が恒久法に基づくこととなり国際協調活動の幅も広がる。自衛隊員が他国・国民のために貢献し感謝される場面が増えることは「国際社会において名誉ある地位を占めたい」(憲法前文)わが国にとって歓迎すべきことだ。
審議で目立ったのは、対案を出さずに政府案を「戦争法案」と決め付け「政争の具」としてきた民主党の姿勢である。対案を出すべしとしていた党内保守派の主張を抑え、議事妨害を連発して敗北した結果責任は党内左派執行部が負わねばならない。国会周辺でのデモへの参加も労働組合を支持基盤とする現執行部の限界を露呈した。昨年12月の衆院総選挙での公約で示された集団的自衛権の行使容認という民意は、自民党圧勝ですでに決着が付いているのだ。マスコミ受けする少数意見にすがるようでは、低迷中の政党支持率の挽回を望めまい。
一方の自民、公明両党も地元民への説明・啓蒙(けいもう)作業を怠ってきたため国民の理解が進まなかった。決断すべき時に決断したことは「政治の責任」として評価する。ただ今後、さらに理解を深める活動を展開していかねばならない。
同法をめぐっては、合憲性が論点になったがあくまでも憲法の枠内ギリギリの法整備となった。ただ国家の安全保障は攻撃(相手)国や想定しにくいテロ集団などの出方にも関わっている。問題点の多い現行憲法の枠内に最大限あてはめることで万全の対策ができたとは言い切れない。
周辺情勢がさらに緊迫化すれば一層の法整備が求められよう。それらに迅速に対処するためには現行憲法を時代に合うよう改めておくことが必要である。現実にそぐわない憲法を守って国が滅ぶことがあってはならないからだ。
党総裁に再選されさらに3年政権を担う安倍首相が「歴史的使命」と明言している「戦後レジームから脱却」し、誇りある国造りを進める道のりは残っている。まずは気力のさらなる充実が肝要だ。「志は気の帥なり」(孟子)という。改憲の「志」を見失ってはならない。